第47話 ゴルドール・ディザスター
ディザスター帝国にそびえ立つ、王城の王室。
国王であるゴルドール・ディザスターは、王座に腰をかけながら今か今かと報告を待ち侘びている。
しかし、待てども待てども来るはずの者からの報告が中々訪れない事に、ゴルドールは苛立ちを隠せないでいた。
「まだか! まだ来ないのか、シュナイダーは!」
遅い、遅いのだ――!
シュナイダーをアスタロト討伐に向かわせてからというもの、一夜が明け、そして昼が過ぎたというのに、未だにシュナイダーからの報告が届かないのであった。
嫌な予感が、ゴルドールの脳裏を過る。
――もしや、シュナイダーが討たれたのではないか。
だが、そんな事は今回に限っては絶対にないはずだとすぐに変な考えを打ち消す。
何故なら、今回は最上位悪魔であるデーモンロードがこの国の希望に応えてくれたのだから――。
同じ悪魔で、最強の存在とされるデーモンロードだ。
たとえアスタロトが同じデーモンロード級であったとしても、相手は単体なのに対してこちらは悪魔の軍勢が揃っているのだ、負ける訳がなかった。
じゃあ、何故こんなにも報告が遅い――?
来ないという事はやはり……。
こうして、ゴルドールはただ座って待ちながらも、同じ考えをグルグルと巡らせながら苛立つ事しか出来ないでいるのであった。
王国に現れた、かつてこの世界を滅ぼし尽くしたとされる大悪魔アスタロト。
当初はシュナイダーを偵察に向かわせ、その実力を注意深く監視する事が目的であった。
だが、そこに本来召喚魔法に応じる事のない最上位悪魔が現れたのは、神の思し召しだと確信した。
思わぬ強大な戦力が、帝国の味方となってくれたのだ――。
この掴み取った絶大なるチャンスを逃す手など、ゴルドールの考えにはなかったのだ。
決して、選択は間違ってなどいない……!
そう気を取り直し、まだかまだかとシュナイダーからの報告を待ち続けた。
すると、勢いよく王室の扉が開かれる。
ついに来たか! と顔を上げるも、それは残念ながらシュナイダーではなく、見張りの兵士だった。
ここは王室であるにも関わらず、見張りの兵士ごときが扉を雑に開けたことに若干の苛立ちを覚えるゴルドール。
「こ、皇帝陛下! これを!!」
しかしその兵士は、そう言って慌てた様子で一枚の封書をゴルドールへと差し出してくるのであった。
ゴルドールは訝しみながらも、側近にそれを受け取らせると、何事かとその封書に目を通す事にした。
「なん……だと……?」
そこに書かれた内容を見て、ゴルドールは絶句した――。
なんとそれは、まさかのアルブール王国の国王からの一便だったのだ。
"帝国から差し向けられた悪魔は討伐した。"
"帝国魔術師のシュナイダーは、現在王国が捕縛している。"
"本件については、帝国による我が国への侵略行為として、厳正に対処させて頂く。"
――シュナイダーが捕縛され、悪魔は討たれただと!?
――い、一体何の冗談だ!?
人間では敵うはずがない最上位悪魔が討たれるなど、そんな訳がないのだ! あるはずがないのだ!!
――そうだ! これは姑息な王国側の嘘に違いない!!
だが、それでは何故ここに悪魔とシュナイダーの事が記されているのか……。
それはつまり、王国はその二人と対峙をして、かつ無事であるが故この封書をゴルドールの元へと届けてきたという事になる……。
「クソッ!! 何故だ!? 何故こうなった!!」
こうして、全てを理解したゴルドールは、手紙を破り捨てながら苛立つ事しか出来ないのであった――。
◇
翌日、王国魔術師団の一団と共に、アルブール王国の国王が帝国へとやってきた。
シュナイダーの居ない今の帝国には、王国魔術師団とまともに戦えるだけの力など残されてはいなかった。
素直に一行を王城へ通すと、帝国は王国からの一方的な要求を全て受け入れる事しか出来ず、結果としてかなり不利な条件での調停を結ばされる事で、今回の一件を処理する事に落ち着いたのであった――。
「……デーモンロードですら、容易く屠る存在だぞ? お前達王国民にとっても、それは危険と背中合わせなのではないか?」
「ふん、何を言う。アスタロト殿も我々王国の民の一人だ。何も問題はない」
「そう言っていられるのも今のうちだ。これはお前達だけの問題ではない。人類――いや、この世界の危機なのだ。精々足元をすくわれない事だな」
「要らぬ心配だ。帝国こそ、これを機に立場を改めるがよい」
アルブール国王のボストンは、ゴルドールの忠告も軽く笑い飛ばした。
そして、アルブール王国の一団はもう用は済んだと、帝国から去って行くのであった。
こうして、富も戦力も大きく失った今の帝国には、もはや王国にも大悪魔にも抗う力など残されてはいなかった。
だが、これはまだ始まりに過ぎないのだ。
言い伝え通り、必ず近い未来、この世界は激しい戦禍に覆われる事になるだろう――。
帝国が王国に――大悪魔に敗北した事は、すぐに世界中に知れ渡る。
であれば、次は奴らが行動を開始する番だ。
ここから遥か遠く離れた地に住まう、人ならざる存在――魔族達が。
ゴルドールは、ブルリと身震いをする。
かつて一度だけ目にした事のある、魔王達の姿を思い出しながら――――。
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<あとがき>
これにて、第二章も終了となります。
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