第46話 国王への報告

 悪魔との決戦を終えたアルス達。

 気絶していたミーナ達も無事に目を覚ましたため、二人のケアはクレア達に任せる事にした。

 そしてアルスとアスタロトさんの二人は、スヴェン王子とサミュエル団長に連れられて、至急今回の件の報告のため国王様の元へと向かう事となった。


 王城へ着くと、すぐにスヴェン王子が国王様へ事の経緯を報告した。


 悪魔の軍勢が学校に攻めてきた事。

 その裏には帝国が関与していた事。

 その証拠として、帝国魔術師のシュナイダーを捕縛した事について、あるがまま一通り報告する。


 報告を受けた国王様は、以前会った時の朗らかな表情とは違い、真剣な顔付きでその報告を全て聞いていた。


「……なるほどな、それは大変ご苦労であった。サミュエルよ、今回現れた悪魔というのは、どれ程であった?」

「はい、正直以前の私達では太刀打ちは出来ないレベルの相手でした。こちらのアスタロト殿の教えがなければ、討ち取る事は出来なかったでしょうな」

「ふむ。それほどの悪魔であったか。それを含む悪魔がおよそ百体……この国が建国されて以降、一番の危機であったと言っても過言ではなかろうな」


 不快溜め息をつく国王様。

 それから国王様は立ち上がると、アルスとアスタロトさん二人に対して、その頭を深々と下げるのであった。


「――この度は、この国を未曾有の危機から救って頂き、誠に感謝する。国からは、相応の礼をさせて頂きたいと思う」

「そ、そんな! ぼ、僕達は何も! それに……むしろ今回の件は、僕達がここにいるから起きた事でも、あると思います……」


 国王様からの勿体無いお言葉に、アルスは慌てて返事をする。

 そもそも今回の一件の原因は、自分達がここに居る事が原因で起きた事なのだ。

 だから、誉められる事なんて何もないし、むしろ今回の事件を招いた事を罰せられて然るべきだと思っている。


「何を言う、君達は既にこの国の国民だ。その国民に降りかかる危機から護る為に、王国魔術師団は存在するのだ。だが、我々では対応しきれなかったであろう強敵から、この国は君とアスタロト殿に救われたのだ。それにだ、そこに敵対関係である帝国が絡んでいるのであれば、その時点で我が国が無関係でもあるまい」


 責任を感じるアルスの言葉を、国王様はしっかりと否定してくれた。


 そっと隣を見ると、アスタロトさんは何も言わずうっすらと笑みを浮かべながら、国王様の言葉を聞いていた。


「国王、それからサミュエル団長。実はもう一つ報告があります」


 すると、一通り事の成り行きを見守っていたスヴェン王子が、タイミングを見計らってもう一つ報告があると申し出た。


「うむ、なんだ?」

「はい、実はあの場に、大天使様が現れていたのです」

「なに? 大天使様だと!?」


 スヴェン王子の報告は、全く予想したものでは無かったのだろう。

 国王様は、そのまさかの報告にとても驚いていた。


「はい、私も最初は信じられませんでしたが、こちらのアスタロトさんとは顔見知りであったという時点で信じるしかないでしょう。その大天使様は、セレス様と名乗られてました。そしてそのセレス様の導きにより、此度の悪魔の軍勢が我々の学校へと攻め入ってきたのです」

「――な、なんと!? ……という事は、まさか帝国側に大天使様が付いているという事なの、か……?」

「いえ、そうとは思えませんでした。セレス様は、ただアスタロトさんに会う為だけに、悪魔を利用したような事を仰っていました。しかし、その為に悪魔すらも利用するようなお方です。どうやら、我々の崇拝している大天使様と現実の大天使様とでは、大分違うのだという認識を改め、警戒するべきかと」


 確かに、僕達がずっと崇拝し続けてきた大天使様が、まさか悪魔を引き連れて人々を襲わせるなんて思いもしなかった。

 だからスヴェン王子の言葉には、この場にいる全員が納得した。


「今後、直ぐにこの国に対してどうこうされる事は無いかと思いますが、そんなセレス様が、この世界の管轄になったという事も仰られていました。この件は、共に居合わせた者共には既に口止めをしております。大天使様を信仰する民は多いので、一先ずはここだけの秘密にすべきかと」

「なるほどな……報告ご苦労。確かに、この件はここだけで留めておく必要があるだろう。――アスタロト殿。良ければその、セレス様の事について教えては頂けないだろうか」


 流石に大天使様への対処なんて、国王様をもってして処理しきれない様子だった。

 できる事と言えば、この場で唯一セレスと面識のあるアスタロトさんに、まずはセレスの事を教えて貰うしかなかった。


「まぁ、よかろう。――あやつは、天使の中でもかなり高位の存在だったはずだ。それ故、あやつがこの世界の管轄を請け負うなど不相応と言えるだろう。本来ならば、世界の管轄などもっと下の位の天使に任せるはずだからな」


 アスタロトさんは、別に隠すことでもないとセレスの事を教えてくれた。

 その言葉に、この場にいる全員が驚きながら耳を傾ける。

 この世界を管轄するというのは、実は位の低い存在が受け持つ事というのも驚きだし、更にはそれよりもセレスは高位の天使だという事に、驚きを隠せなかった。


「まぁそれも全て、今この世界に我が居るからであろう。基本的に、天使と悪魔の世界は互いに干渉できないようになっているのだ。だが以前、我は一度世界を飛び出した頃があったのだが、その時に偶然知り合ったのがセレスだった。それ以降、あやつは我と会う為であれば、何でもするような節があってな……」


 そう語るアスタロトさんは、呆れるように重たい溜め息をつく。


 確かに、その話が本当ならとんでもない話だった。

 アスタロトさんに会いたいという理由だけで、本来は高位の存在であるにも関わらずこの世界の管轄を請け負い、更には悪魔すらも利用してアスタロトさんの元へとやってきたという事になるからだ。


 それはもう、過激なストーカーにも近いと言えるのではないだろうか……。


「まぁ、いくら相手がセレスであっても、もしアルスへ干渉しようとするのならば、我は容赦はしない。ついでに、この国に対しても何かしようというのなら、我がそれを食い止める事をここに約束しよう。――それだけ、先程のお前の言葉は気に入ったぞ」


 そう言って、アスタロトさんは国王様に向けてニヤリと笑みを浮かべた。

 先程というのは、アルスに対して国王様が仰ってくれた言葉の事だろう。


「有難いお言葉、感謝する。もはや我々ではどうしようもない次元の話だ、ここは素直に頼らせて頂くとしよう。――しかしそうか、アスタロト殿も苦労をされているのだな」

「全くだ。あいつはその力も考え方もめちゃくちゃなのだ」


 そう言うと、アスタロトさんは再び重たい溜め息をつくのであった。


 何はともあれ、こうして国王様への報告を済ませたアルス達は、特に罰せられる事も無くこれにて一件落着となったのであった。

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