第37話 校門前での戦い
「マーク、本当にやるんだね?」
「あぁ、俺達にとっては初の実戦となる。気を引き締めて行くぞ!」
「「おう!」」
マークとマリアナ、それからレオン、ビーン、ダン、サリーの四人が続く。
こうしてマーク達のクラスの上位者六人は、急いで校門へ援護に向かった。
その実力は、既に魔術師団の一団に匹敵する程高いと言えるだろう。
マーク達は、襲撃を仕掛けてきた悪魔達を退治するため、一度自分達の教室へ戻り非常時用に備えていた本物の剣を腰に下げている。
これから向かうのは、クラス対抗戦ではなく本物の命を賭した戦い――。
殺らなければ殺られる、その覚悟を胸に六人は向かうのであった。
校門へ着くと、既に駆けつけていた先生達が悪魔と戦っていた。
他の生徒達の避難は既に済ませてくれているようで、その場には悪魔と先生達以外誰もいなくて助かった。
これで、思う存分戦う事ができる――。
「先生! 助太刀します!!」
「き、君は! マークくん! いやでも、いくら君でも危険だ! 生徒に悪魔の相手をさせるなど!」
「先生、今はそれどころじゃないでしょう? いいから私達も手伝うわよ、魔導の四――サンドウォール!」
マリアナは得意魔法のサンドウォールにより、悪魔達を巨大な土壁で囲って動きを封じる。
そして、直ぐ様自分の使い魔であるゴーレムを召喚する。
それに合わせて、マーク以外の四人も使い魔を召喚する。
サリーのグレーターグリーンドラゴン、ビーンのグレーターグリフォン。
それにレオンのリッチに、そしてワイバーンだ。
こうして上位の使い魔が揃うと、悪魔達に決して引けを取らない迫力があった。
そして、リーダーであるマークには、その使い魔が束になっても敵わないであろう使い魔だっているのだ。
「――マーク、あの悪魔達は倒してもいいんだよね?」
「あぁ、ミスズ。今回の獲物は根絶やしにして構わない」
「分かった」
そう言うと、ミスズは今まさに魔力の尽きかけた先生に襲いかかろうとする悪魔の影を伝い、後ろから悪魔の首を跳ね飛ばした。
こうして、ミスズにより四体いた悪魔の内、一体が簡単に屠られる。
だが、ミスズからしてみれば、この程度狩りのうちにも入らなかった。
それほどまでに、これらの悪魔などミスズの相手ではなかった。
この四体は、所謂下級悪魔だ。
魔導の五まで扱えるため、その魔法の実力はリッチや魔術師団員と同等レベルと言えるだろう。
だが悪魔という存在は、扱える魔法のレベル以上に、その身体能力の高さが一番厄介と言われている。
魔術師団員レベルの高度な魔法を扱いながら、同時に悪魔はその高い身体能力で直接襲い掛かって来るため、魔術師が悪魔と戦う場合は常に距離と数的有利を保ちながら戦う必要がある。
それだけ、悪魔と戦うというのは、例え下級悪魔であっても厄介とされているのだ。
そしてそれは、ここクリストフ魔法学校の教師であっても同じであった。
複数の先生が、使い魔も使いなんとか数的有利を作りながら戦ってはいるが、それでも常に隙を狙って突いてくる悪魔の相手をするのは簡単では無かった。
だが、ミスズはそんな悪魔を簡単に屠って見せた。
それこそが、大悪魔という例外を除けば最強の使い魔と言われるアサシンオーガの実力なのである。
そしてそれは、ミスズだけではない。
ミスズの主であるマークにとっても同じであった。
得意魔法のイフリートを使うまでもなく、身体強化魔法だけで悪魔との間合いを一気に詰めると、そのまま悪魔の首を斬って落としたのである。
他の五人も、近くの先生と協力しながら残りの悪魔の相手をしているが、彼らの実力ならば残りの二体も時間の問題だろう。
こうしてマーク達が駆けつけた事により、学校を襲撃してきた悪魔達四体は呆気なく討伐されたのであった。
「ヤブンがいないな……」
悪魔を倒しきったところで、マークは気付く。
主犯格と思われるヤブンを捕らえるつもりだったが、肝心のヤブンが突如としてこの場から消えてしまっていたのである。
「ちっ、逃げられたか」
「――大丈夫ですよ。貴殿方の相手は私がいたしますので、ご安心を」
ヤブンを逃した事に舌打ちをするマークに、突然背後から声がかかる。
驚いたマークは、直ぐ様後ろを振り向き臨戦態勢を取る。
振り向くとそこには、先程の悪魔より一回り大きく、全身を黒く染めた禍々しい姿をした悪魔が一体立っていた。
「……貴様が親玉か?」
「さて、どうでしょうね」
そんな会話をしていると、直ぐ様悪魔の影からミスズが飛び出し、悪魔の首目掛けて斬りかかる。
相手に隙があれば、すぐにその隙を利用して殺しにかかる。
それこそが、アサシンオーガの理不尽なまでに徹底された必殺の戦闘スタイルなのである。
「今話しているところです。野蛮な鬼ですね」
だが、斬り掛かったミスズの短刀を、悪魔は片手で簡単に受け止めてみせたのであった。
「なに!?」
まさか、自分の完璧な不意打ち攻撃を防がれるとは思っていなかったミスズは、驚きつつも短刀を手放して直ぐに悪魔との距離を取った。
「良い判断です。倒し損ねてしまいました」
――どういう事だ?
その言葉の意味が分からず、マークはミスズの方に目を向ける。
するとミスズの服が、大きく切断されてしまっているのであった。
――な、なんだ? いつの間に!?
この場にいる誰もが、その悪魔の攻撃を目で追う事が出来なかった。
そもそも、ミスズの攻撃自体完璧な奇襲であったのだ。
しかし、それを簡単に防いだだけではなく、更には目で追えないほどの攻撃でミスズを斬りつけてもいたのである。
それだけで、この悪魔が先程の悪魔など比ではない事を物語っていた。
マーク達六人、それにこの場にいる先生達の力を合わせても、目の前の悪魔の相手が出来るか否か怪しい程に、その実力差は正直圧倒的なのであった――。
だが、それでもマークは引くわけにはいかなかった。
この魔法学校を卒業したら、まずはマークは魔術師団に入団する予定なのだ。
父と同じく、この愛すべき国を守れる人間になるのだと、幼い頃からずっと覚悟を決めて今日まで努力してきたのだ。
――こんなところで負けてちゃ、国なんて絶対に守れねぇよな!
だから、ここは決して引くわけにはいかないと、マークは目の前の悪魔に立ち向かう。
「魔導の五――イフリート!!」
相手は確実に、今の自分よりも強い。
だったら、相手の隙をついて最初から全力を出すしかない。
――命に代えても、ここでこの悪魔を必ず倒す!!
そう覚悟を決めたマークは、イフリートの効果を全開に解き放ちながら、目の前の悪魔目掛けて超速度で斬り掛かる。
アルスに敗れてから、マークは更に己の剣を鍛え直した。
そして今では、あの時以上のスピードと威力を出す事が出来るようになった、マーク渾身の一撃を叩きつける。
「――マークは私が守る!」
そして、マークに合わせてミスズも一緒に斬り掛かる。
マークとミスズ、二人の超速での連携攻撃。
そして、それに気付いたマリアナや先生達も、二人の攻撃のタイミングに合わせて攻撃魔法を悪魔目掛けて放つ。
こうして、この場にいる全員の攻撃が、一体の悪魔目掛けて一斉に放たれる。
「――ほう、面白い。ですが、それでも届きませんよ」
だが悪魔は、それらの攻撃を避ける素振りも見せなかった。
その身に多数の魔法を受けているにも関わらず、変わらず仁王立ちする悪魔。
そして、悪魔は片手でマークの剣を受け止めると、逆の手でミスズを簡単に弾き飛ばし、そしてマークの腹を蹴り飛ばした。
こうしてマークとミスズ、それにこの場にいる全員の魔法の全てをはじき返されてしまったのであった。
その場に倒れたマークとミスズを見て、全員に動揺が走る。
教師から見ても、マークの実力は学生レベルを優に超えており、戦闘においては既に自分達よりも強くなっている事を知っている。
そして、そのマークの使い魔であるアサシンオーガは、説明不要の最強の使い魔だ。
その二人が地面に倒れ、自分達の魔法攻撃も一切届かなかった今、ここに残る者達にこれ以上出来る事など何も無いのであった……。
その現実が、絶望に変わる――。
そして、その広がる絶望に気付いた悪魔は、ニヤリと愉悦の笑みを浮かべる。
「皆さん、良い表情になりましたね。そうです、お察しの通りですよ。貴方達はこれから、一人残さず私に殺されるのですからね! あっはっは!」
ようやく現実を理解した事を嘲笑うように、歪な嗤いを浮かべる悪魔。
そう、この悪魔にとっては、最初から人間などただの狩りの対象でしかなかったのだ。
そして、人がそれを理解した時、希望が絶望へ変わっていくその瞬間が堪らないのであった。
こうなれば、あとはなんとか生き延びようと必死に逃げ出すだけだ。
人間は弱く、愚かで、そして面白い――。
さぁ、今日も鬼ごっこの時間だ!
一人一人、見せ付けるようにして殺していってあげましょう。
「やれやれ。何故アークデーモンほどの化け物が、こんなところにおるのだね?」
「……誰ですか?」
いざ狩りを楽しもうとする悪魔に、突然背後から声が掛けられる。
通常、人間が近くにいればすぐに把握できるのだが、この声の主の接近に悪魔は全く気付かなかったのだ。
つまり、それだけ他の者とは違う強者の登場に、悪魔は警戒しつつ声のする方を振り向く。
するとそこには、長身で白い髪をした初老の男性と、その後ろに魔術師数名の姿があった。
「……なるほど、貴方ならこの私が気付かないのも納得ですね」
「悪いが、お前の悪巧みはこれまでだ。大人しくここで消えて頂こう」
悪魔でも、気付かなかった事に納得する存在――。
まさに絶体絶命の状況に現れたのは、このアルブール王国の守護者であり魔術師団団長を務める、サミュエル団長とその一団であった。
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