第33話 クラス対抗戦を終えて

 白熱したクラス対抗戦も無事終了し、アルス達はまたいつもの日常へと戻っていた。

 あの戦いを通じて、アルス達のクラスはより一つになったように感じる。


 学生生活最後のクラス対抗戦を、無事勝利で終えることが出来たのは本当に良かったと思う。

 でもそれ以上に、クラス一丸となって一つの目標に取り組み、成功を収める事ができたのがクラスの結束力をより強めているのだと思う。


「どうしたアルスよ? ニヤニヤして」

「え? あー、その……ちょっと思い出し笑いを……」

「ふむ、そうか」


 そう声をかけてきたアスタロトさんも、こちらを向いて嬉しそうに微笑んでいる。

 クラス対抗戦以降、アスタロトさんもクラスの皆に本当の意味で受け入れられており、他の女子生徒から度々話しかけられるようになっていた。


 それに対して、アスタロトさんの方も笑顔で対応しており、アスタロトさん自身も変わっているのであった。


 アルスは、それがなんだか嬉しくて堪らなかった。

 最初は、いきなり伝説の大悪魔が召喚されてしまったことに戸惑いしかなかったが、今はアルスの使い魔がアスタロトさんで本当に良かったと思っている。


「アルスくん、今日もお疲れ様。それにしても、今思い返してもアルスくんのあの魔法は出鱈目だったね」

「私も見てたわ、あんな強くなられたら私が守る隙が……じゃなくて、わ、私ももっと強くならないとっ!」


 スヴェン王子とクレアが話しかけてきてくれる。

 相変わらずクレアは、よく分からない事を言っているけれど。


「いえ、凄いのはアスタロトさんですよ。僕の魔法はアスタロトさんとの特訓のおかげなんですから」

「それでも、アルスくんが圧倒的な魔法を行使できている事には変わりはないさ。しかし、魔法をイメージで扱うか……未だにそれだけで、あそこまで魔法の質が変わるなんてにわかには信じられないが、こればかりは論より証拠ってやつだろうね」

「ええ、私も試してみてはいるんだけれど、全然ダメね。ちっとも上手くいかないわ」


 スヴェン王子やクレアでも出来ない事を、何故アルスが出来たのか。

 それはやっぱり、アスタロトさんの教え方が上手なことと、あとは反復練習をするしかないと思う。

 魔法の本質を根本から見直すわけだから、容易ではないのはたしかだから。

 でも二人なら、きっとすぐに修得して、すぐにアルスなんかより凄い魔法が使えるようになると思う。



「お師匠!! ここにおられましたか!! どうか私に特訓を!!」

「またお前か、知らん」


 いきなり影の中から現れる人物が一人――。

 普通の人なら反応することすら不可能なその出現方法で、いきなりアスタロトさんに抱き付こうとするも、ひょいと躱されその人物は地面にダイブする。


 そんなちょっと残念な襲撃者は、マークの使い魔のアサシンオーガのミスズだ。


 ミスズはあれ以降、アスタロトさんの事をお師匠と呼ぶようになり、時折こうしてアスタロトさんに稽古をつけて貰おうと現れるようになった。


 だが、いくらあのアサシンオーガであっても、やはりアスタロトさんの前では無力だった。


「ふぐっ! や、やはりお師匠、触れる事すらできず! しかし、これもまた特訓! 次こそはぁ!!」

「まったく、お前という奴はなんなんだ……」


 呆れたアスタロトさんは、深く溜め息をつく。

 こんな風に、大悪魔のアスタロトさんすらも気苦労させている辺り、ミスズもある意味大物と言えるだろう……。


「おいミスズ! こんなとこにいやがったのか! 目を離すとすぐこれだ!」

「げ、マーク! 今私は、お師匠に特訓をつけて貰っているのだ! 邪魔はするな!」

「邪魔なのはお前だ」


 呆れたアスタロトさんは、ミスズの首根っこを掴むとマークの方へとポイッと放り投げた。


 マークは、ここにアルスがいる事に気が付くと、飛んで来るミスズを無視してこちらへと歩み寄ってくる。


 飛んで行ったミスズは、そのままグヘッという声を上げながらまた地面と衝突していた。


「おう、アルスじゃないか」

「あ、うん、こんにちはマークくん」

「マークでいい。俺とお前はもうダチなんだからな!」

「ダ、ダチ!?」

「そうだ、嫌だとは言わせないからな!」


 そう言うと、マークはガシッとアルスと肩を組んで笑った。

 あの対抗戦のあと、マークはアルスへこれまでの非礼を詫び、それ以降アルスを見つける度こうしてフレンドリーに接してくれるようになっていた。


 正直最初は嫌な人だなと思っていたけれど、こうして接してみると、マークはただ真っ直ぐな性格をしているだけなんだなと伝わってきた。

 誰よりも力を求め、そのためにこれまでずっと努力を積み重ねてきたのがマークなのだ。


 だから、今ではマークがあそこまで熱くなった理由もなんとなくわかるし、こうして受け入れてくれていることは素直に嬉しかった。


「おい、お前、我のアルスに触りすぎだ」

「男の友情を育んでんだよ! 邪魔しないでくれ!」

「ほう、我に楯突くか?」


 肩を組むマークに、何故か絡むアスタロトさんは、ニヤリと笑いながら全身から魔力を解放しだす。

 その濃密で凄まじい魔力は、それだけで周囲の人を一瞬で委縮させる。


「ア、アスタロトさん! ぼ、僕は大丈夫ですから! ストップストップ!」

「……そうか」


 暴走しかけるアスタロトさんを、アルスは慌てて制止した。

 アルスに止められたアスタロトさんは、少しションボリしたような顔をすると、すぐに全身の魔力を解除してくれた。


 最近、アスタロトさんはアルスの事になると、たまにこうして過剰に反応するところがあるのだ。


「我もアルスと……」

「え、なんですか?」

「……なんでもない」


 そう言うと、アスタロトさんはプイッと横を向いてしまった。


 ――えっと、なんか怒ってます……?


 こうして、最後のクラス対抗戦も終わったことで、マークやミスズ、それに隣のクラスのみんなとも打ち解ける事ができたのは、本当に良かったと思う。


 なにはともあれ、こうして色々と環境は変化はしてきているけれど、アルス達はまたいつもの日常へと戻ったのであった。

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