第31話 クラス対抗戦⑧

「出し惜しみ無しだ。さっさとケリをつけて、力の差を分からせてやる!」


 アルスと向かい合ったマークは、そう宣言し自身の身体へ更に身体強化魔法を付与する。

 元々付与されている魔導の五イフリートと、魔導の三に属する複数の身体強化魔法。

 これにより今のマークは、スヴェン王子と対峙した時以上の身体能力を手に入れる。

 これはもう、上位の魔物――いや、それ以上の存在と言って差し支えないだろう。


 マークはそのまま腰を低く落とし、木刀を構える。

 そして、一気に大地を強く蹴り上げながらアルスの元へ突撃する。


 その速度は、最早人間の出せる速度を優に越えていた。

 一瞬でアルスの手前まで辿り着くと、人間では到底不可能な跳躍と共にアルスへ接近する。

 マークは魔力を更に籠め、燃え盛る爆炎を纏った木刀をアルスの脳天目がけて叩きつける。


 だが、アルスはその神速とも言えるマークの動きもちゃんと追えていた。

 余裕のあるアルスは、そんなマークの渾身の一撃をさらりと回避して見せたのである。


「なっ!? 躱しただとぉ!?」

「――たしかに速いですが、僕には当たりませんよ!」

「ふ、ふざけるなっ!!」


 驚くマークであったが、きっとたまたま避けられたに違いない。

 そう思いすぐさま気を取り直したマークは、再び剣技を繰り出し次の攻撃を仕掛ける。


 ……しかし、その繰り出す攻撃の全てが、何故か一度もアルスには当たらない。


「何故だ!? 何故当たらん!!」


 苛立つマークは、尚も攻撃の手を止めなかった。

 何倍にも膨れ上がった身体能力と、自身の鍛え抜いた剣技。

 しかし、その究極とも言える全ての攻撃が、一度たりともアルスへ当たることはないのであった……。


 アルスは決して、運動能力が高いわけではない。

 というか、どちらかと言うと悪い方だ。結構悪い。

 じゃあ何故、こうしてマークの神速の攻撃を避けれるかと言えば、これこそがアスタロトさんとの特訓の成果である"イメージで魔法を扱うこと"のおかげだった。


 これまで扱えなかった魔法を扱うことができること。

 そして、全ての魔法の効力が、これまでより数段上がっていること。

 この二つが、マークという強者ですらも届かない力の理由だった。


 今アルスが自身に使っている魔法は、魔導の七――パーフェクトアイだ。

 このパーフェクトアイにより、アルスは"相手の行動の少し先を予知することができる目"を手に入れている。

 そのため、マークが次にどのような攻撃を仕掛けてくるのか、その全てが手に取るように分かっているのであった。

 だからアルスは、たしかにマークの攻撃は凄まじいけれど、次にくる攻撃に合わせて身体を動かせばいいだけなのであった。


 それでも、マークの神速の一刀の前では、頭では分かっていても身体が追い付くはずもない。

 一撃は避けられても、連撃を浴びせられればその時点でお終いだ。

 だからアルスも、自身に身体強化魔法を予め付与してあるのであった。

 マークのものとは比べ物にならない、イフリートすらも凌駕する身体強化魔法だ。


「貴様ぁ!! どんなインチキを使っている!?」

「インチキって、ただの魔法ですよ?」

「貴様ごときの魔法でぇ! この俺の攻撃がぁ! 躱せてたまるかぁ!!」


 怒りに任せて、次々と繰り出されるマークの攻撃。

 感情に支配されたその攻撃は、徐々に精度を欠いてきており、攻撃を躱すアルスの方にも余裕が出てくる。

 そして躱し続けていることで、マークに付与されたイフリートの能力も目に見えて弱まってくるのであった。


「そろそろ、イフリートの効果が切れてきたみたいですね」

「黙れぇ!!」


 その事には、マークも当然気が付いていた。

 だからマークは、ならば最後の一撃だとばかりに残った全ての力を籠めて、巨大な炎を纏った一刀をアルスに向けて振るった。

 その攻撃は、今までのどの攻撃よりも明らかに強力だった――。


「まだこれだけの力を出せるだなんて、メチャクチャですね」

「これで終わりだぁ!!」

「でも、そうですね。――これで終わりです!」


 マークから放たれる巨大な炎を纏った渾身の一撃を、何故かアルスは躱そうとはしない。

 躱す代わりにアルスがとった行動。

 それは、マークの渾身の魔法に対して、自身も魔法をぶつけるという選択だった――。


「魔導の八――ビッグバースト!」


 アルスが唱えたのは、魔導の八――ビッグバースト。

 無属性の攻撃魔法で、凝縮された魔力を爆発させる強力な魔法だ。

 その威力は属性に寄らず、等しくダメージを与えることが出来る。


 結果マークは、その大爆発により大きく弾き飛ばされると、岩壁に激突してそのまま崩れ落ちるのであった。

 その全身は爆発によりボロボロで、もはや戦うことなど不可能なほどの深手を負っていた。


 つまりこの一撃で、勝負ありだった――。


「う、嘘でしょ? あのマークがやられるなんて――!?」


 その光景に、スヴェン王子と戦っているマリアナが驚きの声を上げる。


「そのようだな、ではこちらもそろそろ終わらせるとしようか」

「なっ!?」


 マリアナの一瞬の隙をつき、急接近するスヴェン王子。

 そしてそのまま、マリアナの喉に木刀を突きつけこちらも勝負ありだった。


 そして、丁度会場に試合終了の合図が鳴り響く。

 見れば、先に戦いを終わらせていたクレアとマーレーの二人が、相手陣地の旗を奪ってくれていたようだ。


「どうよ? これこそ、有終の美ってやつよね!」

「――勝ち」


 旗を握り、こちらに向かってブンブンと振っているクレアと、その隣で無表情のマーレー。


 ――そうか、ついに僕達のクラスが勝ったんだね。


「アルスくん! 凄い、凄いよ!! それにさっきの魔法は何? 凄すぎるよぉ!!」


 後ろで隠れていたミーナが、喜びながらアルスの手を握ってブンブンと振り回してくる。


「僕も横目で見ていたが、最後のあの魔法が特訓の成果という事かな?」

「あ、はい! アスタロトさん直伝の必殺技です!」

「はははっ、確かに必殺技だ。あんな魔法、サミュエル団長でも恐らく扱えないだろうからね」


 スヴェン王子もまた、そう笑いながら勝利の喜びを味わっていた。


 負傷したカール達に治癒魔法を施し、そしてクラス全員で一ヶ所へと集まる。

 その中心で、相手の旗を握ったスヴェン王子が、勢いよくその旗を上に掲げて叫ぶ。


「我々の勝利だ!!」

「「うぉー!!」」


 こうして、クラス全員で初の勝利の喜びを分かち合った。

 これまで争いごとは避けてきたアルスだけれど、みんなで力を一つにして、同じ目標に辿り着くことの素晴らしさを、この対抗戦を通じて実感することが出来た。


 だからこそアルスは、このクラスで本当に良かったと思う。


「アルスよ、よくやったな」


 気が付くと、アルスのすぐ後ろにアスタロトさんがいた。

 そしてそのまま、アルスを後ろから優しく抱きしめる――。


「ア、アスタロトさん!?」

「ちょ! あんた、アルスに何やってんのよ!」

「我はアルスの使い魔だ。故に、主の頑張りに答えるのが使い魔の役目だろ?」

「ご主人様に抱き付く使い魔なんて聞いた事ないわよ! いいから離れなさいよ!!」


 何故か怒るクレアと、それをおちょくるアスタロトさん。

 そして、アスタロトさんに抱き締められるアルスを、恨めしそうに見つめるクラスの男子達。


 こうしてアルス達のクラス対抗戦は、見事勝利で終えることが出来たのであった――。



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<あとがき>

以上で、本作一章が終了となります。

初めて書いた作品の全面リメイク版ということで、元の文章の汚さに絶句しながらも、代わりに自分の書きたかったものを書きたいように書いていた真っすぐさと申しますか、このリメイクによる連載は自分の中でも得られるものが大きかったりします。


書き直すのは大変ですが、自分が一番この物語を楽しんでいたりもしますw


第一章では、魔法学校内の内容になりますが、第二章以降はまた新たな敵が登場します。

それでも、我らがアスタロトさんなら大丈夫?w


そんなわけで、良ければ二章以降も楽しんで貰えたら幸いです。

(カクヨムでの試行錯誤も兼ねているので、二度のタイトル変更申し訳ありませんでした……。)


もし良ければ、ブクマや評価などいただけるととても励みになります!

宜しくお願いいたします!


ではでは、また二章で。


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