第30話 クラス対抗戦⑦

「マーク、今年こそは我々が勝たせて貰う」

「ほぅ、王子が俺の相手ですか。――だが、今回も我々が勝たせて頂きますよ」

「それは無理だと思うけどね」

「ほぅ? それは何故か、聞いても宜しいですか?」

「たとえマークが僕を倒せても、僕の後ろにはあの出鱈目な強さを誇る大悪魔の主が控えているからね」

「はっはっは! 確かに、あの悪魔がそれなりに強いことは認めましょう。でも、後ろのあいつが俺や王子に勝るとは思えませんね! さっさとあいつを倒して、ミスズの仇は取らせて貰おう!」

「だったら、まずは私を倒してみたまえ!」


 スヴェン王子とマークは、互いに木刀を構える。

 お互いの使い魔は既に戦線離脱しているため、一対一の真剣勝負だ。


 まずはマークから仕掛ける。

 地面を強く蹴りあげると、そのまま猛スピードでスヴェン王子目掛けて木刀で斬りかかった。

 マークの全身には身体強化魔法、そして手にする木刀には得意の炎属性の魔法を付与してある。

 そのスピードも木刀から溢れ出る炎の凄まじさも、やはり他の四人のものとはわけが違った。

 激しい爆炎とともに、木刀がスヴェン王子の脳天を目がけて一気に叩きつけられる。


 しかし、そこは学年首席のスヴェン王子だ。

 凄まじい剣撃であったが、シールド魔法を展開しその攻撃を防いで見せる


「ほぉ! これを止めるか!」

「僕だって、君の対策ぐらいしているさ!」


 攻撃を防がれたマークは、感心しながら再びスヴェン王子と距離を取って剣を構え直す。


「流石ですね、ならばこちらも、本気を出させて頂こう」

「願わくば、今のが全力であって欲しかったんだけどね……遠慮は不要だ、全力でくるといい」

「では行かせて頂く! 魔導の五――イフリート!」


 その詠唱とともに、マークは自身に魔法を付与する。

 すると、木刀だけでなくマークの全身からも、激しい炎が勢いよく溢れ出すのであった。

 その姿は、まさしくその魔法の名のとおり、炎の精霊イフリートのようであった――。


 魔導の五――イフリート。

 イフリートを付与された対象は、その全身に炎属性の加護を纏う事ができる。

 これにより得られる恩恵として、無詠唱での炎属性の魔法の行使が可能となる。

 また、物理攻撃にも炎属性が付与され、特定の属性に対する防御力も各段に上がるとされている。


 そんな、要するに身体強化魔法の上位魔法。

 通常、魔術師は後方支援が主となる事から、前線に出る戦士に付与する高度な上級魔法を、マークは自身に付与したのであった。


 そしてマークは、左手で地面を触れる。

 すると、触れた箇所から地面が溶解され、そのまま炎を吹上げながらスヴェン王子目掛け巨大な炎の刃が襲いかかる。


 だがスヴェン王子は、迫りくる炎に対して冷静に魔導の四アイスウォールを展開し相殺した。

 そして今度はお返しとばかりに、すぐさま魔導の四ライトニングボルトをマーク目掛け放つ。

 さすがは学年主席のスヴェン王子だ。あらゆる属性の高位魔法を自由自在に操ることができる。


 しかし、電光石火のライトニングボルトがマークに直撃したと思った次の瞬間、ライトニングボルトはマークにダメージを負わす事なくそのまま飛散してしまうのであった。


「イフリート状態の俺には、そんな魔法通用しませんよ!」

「これは驚いたな……」


 スヴェン王子のライトニングボルトを無効化したマークは、相手を追い詰めるべく再びスヴェン王子に向かって斬りかかる。

 先程の速度と威力も凄まじかったのだが、今度のは更に一段階以上レベルが上がっている。

 これは勿論、イフリートの効果により身体能力が大幅に上昇しているためであった。


 こうして繰り出された、もはや人の限界を越えた超速の連撃に、流石のスヴェン王子も捌ききる事が出来ず、その身に炎の剣撃を受けてしまう。

 胴体に叩きつけられた爆炎を纏った木刀により、スヴェン王子はそのまま激しく弾き飛ばされてしまった。


「くっ……!! やるなっ!!」

「ほぅ、まだ立てますか」

「生憎、こちらも負ける訳にはいかないのでね……!」


 そう言うと、スヴェン王子は木刀で身体を支えながらなんとか立ち上がる。

 そして直ぐ様、自身に治癒魔法を施す事で回復をする。


 戦闘において圧倒的な実力を誇るマークだが、オールマイティに魔法を扱う事が出来るスヴェン王子も一歩も引かない、まさに学年トップ同士の凄まじい戦い――。


 ……だが、それでもスヴェン王子が押され始めているのは間違いなかった。


「魔導の四、サンドウォール!」


 すると次の瞬間、その詠唱と共に突然スヴェン王子の足場が上空へ向けて一気に盛り上がる。

 その結果、大きな壁を生み出される衝撃により、スヴェン王子の身体はそのまま上空へと大きく弾き飛ばされてしまうのであった。


「くそっ! ここでマリアナか!!」

「ちょっと手こずったけど、そちらの特攻部隊は倒させて貰いましたよ。――いきなり私のゴーレムが倒されたのには、ビックリしちゃったけどねぇ」


 どうやらカール達は、マリアナ相手にやられてしまったようだ。

 マークだけでも手に余る状況なのに、マリアナまでやってきてしまったとなれば、完全にスヴェン王子一人で相手が務まるような状況ではなくなってしまった。


 しかし、まさかマリアナも、アスタロトさんのデコピンにより自慢のゴーレムがやられたとは思いもしないだろう……。


「マーク、ここは私が引き受けるから、あなたは先に行きなさいな」

「分かった、ここはお前に任せるとしよう」


 こうして、スヴェン王子の相手はマークからマリアナへと変わる。

 そしてその結果、フリーとなったマークはイフリートの効果を発揮し、物凄い勢いで旗のある方向へ向かってくるのであった。


 だが、旗は絶対に譲らない――。

 その強い覚悟と共に、マークと旗の間にはアルスが一人立ちはだかる。

 それに気付いたマークは、一定の距離を保ったところで一度立ち止まる。


「――ふん。ようやくだな、覚悟は出来てるか?」

「はい、ここから先へは絶対に通しませんよ」


 睨み合う二人――。

 こうして、ついにアルスとマークの二人が直接対峙する事となった。


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