第29話 クラス対抗戦⑥
「ここから先へは行かせない」
攻め込んでくるダンとサリーに対して、マーレーはファイヤーボールを防いで見せたアイスウォールで二人の侵攻を塞ぐ。
「ふーん、あんたがアタイらとやろうってのかい?」
「サリー、油断は禁物だ。相手はあのマーレーだ」
「分かってるよ、小賢しいったらないね」
荒々しい性格をしたサリーは、そう言って相手がマーレーだと分かるとニヤリと笑う。
そして、握っている木刀に魔力を籠めると、身体強化による高速でマーレーに斬りかかる。
しかし、マーレーは迫り来るサリーのことを気にする素振りも見せず、無表情でただ見ているだけだった。
「はん!? 余裕だってか!? アンタ、死ぬよ!!」
そのマーレーの態度に、更に苛つくサリー。
握る木刀に渾身の力を込め、そのまま一気にマーレーの脳天目がけて叩きつける。
その一撃の威力は凄まじく、激しい衝突音が鳴り響く――。
普通の人間ならば、確実に即死の一撃。
対抗戦と言えど、決して手を抜かないサリーの一撃に嫌な空気が流れる。
流石に今の攻撃をまともに受けては、いくらマーレーでもただじゃ済まない……。
そんな暗雲が立ち込める中、激しい砂埃の中から出てきたのは、先程と変わりないマーレーの姿だった。
サリーの振るった木刀は、魔力による障壁に防がれており、その一切がマーレーには届いていなかった。
「なっ!? なんだい、これは!」
「プロテクション」
驚くサリーに、マーレーは淡々と答える。
プロテクション。
それはシールド魔法の上位魔法であり、魔導の五に属する高位の防御魔法。
通常のシールドとの一番の違いはその強度だ。
より高密度に張られたその魔力の障壁は、いくらサリーの全力の一振りでも突破することは出来なかった。
「サリー! そいつは物理では簡単に突破はできねぇ! 魔法で応戦するぞ!」
すぐに状況を判断したダンが、マーレー目掛けてファイヤーボールを放つ。
しかし、そのファイヤーボールを受けても尚、マーレーのプロテクションの突破には至らなかった。
「おいおい、魔法も弾くとかチートかよ」
「ダン、あんまりモタモタもしてらんないよ! 相手は一人さ、使い魔を召喚してさっさとやっちまおう!」
ダンの放ったファイターボールにマーレーが一瞬気を取られている隙に、あっという間に距離をとったサリー。
そして、マーレーに動きがないことを確認すると、サリーは使い魔のグリーンドラゴンを召喚する。
しかもそれは、ただのグリーンドラゴンではなかった。
他のグリーンドラゴンと比べると更に大きく、スヴェン王子レッドドラゴンよりも大きかった。
グレーターグリーンドラゴン――。
そう呼ばれる個体が、稀に存在するという話は知られているが、実際にこうして目の当たりにすると、それは存在するだけで災害と呼べる程恐ろしい存在であった。
そしてサリーは、その召喚したグレーターグリーンドラゴンをマーレーのもとへ突進させる。
それに合わせて、ダンも自分の使い魔を召喚する。
召喚されたのはワイバーン。
ワイバーンは、その大きな翼で空を自由に移動し、レッドドラゴンと同じく炎のブレスという強力な範囲攻撃を得意とする超上位魔物の一種だ。
ダンは召喚したワイバーンに跨がると、一気に上空へと飛び上がった。
こうして、陸からはグレーターグリーンドラゴンとサリー。
そして上空からは、ワイバーンとダン。
戦力にして、まさしく王国魔術師団の一団を相手にするようなとてつもない戦力が、マーレー目掛けて一気に襲いかかるのであった。
しかしそれでも、マーレーの表情は変わらない。
なんの感情も感じさせない無表情のまま、マーレーも自らの使い魔を召喚する。
召喚されたのは、カーバンクル。
マーレーのカーバンクルは、以前召喚した際の姿に比べると身体が一回り大きくなっており、短期間ではあるが成長しているのが一目で分かった。
カーバンクルは常に成長していく魔物であり、その成長度に比例して力を増加させるという特徴があるらしい。
マーレーの前に立ったカーバンクルは、飛びかかるワイバーンに向けて大きく口を開く。
すると、口から白いレーザーのような波動が飛び出し、そのまま光のような波動がワイバーン目掛けて一直線に放たれる。
それに気が付いたワイバーンも、すぐに炎のブレスで応戦しカーバンクルの攻撃と相殺する。
つまり、カーバンクルの放ったあの波動は、ワイバーンの炎のブレスと同格の攻撃ということになる。
攻撃を防がれたカーバンクルは、次にワイバーン目掛けて駆け出すと、全身を覆っている毛の色を茶色から黒色に変える。
青色だった瞳も、同時に赤色に変わる――。
これもカーバンクルの特徴の一つで、全身の色を変えると共に、その能力を変化させる事が出来るのだ。
黒色、それは近接戦闘特化の形態――。
「俺のワイバーンと互角だと!? ったく、使い魔までおっかねぇの従えてやがるな! おい、サリー! カーバンクルはこっちでなんとかするから、この隙にマーレー目がけて一斉攻撃だ!」
「あいよ!!」
ダンは炎の魔法を付与した木刀を構え、ワイバーンに乗ったままマーレー目掛けて一気に急降下した。
それと同時に、ワイバーンは突撃しながら再び炎のブレスを、マーレーとカーバンクルを一直線に捉えて吹き掛ける。
だが、降下しながら吹きかけられる炎のブレスを前に、カーバンクルは物怖じする事なく物凄い速度で跳躍すると、そのままワイバーン目掛けて突進する。
そしてカーバンクルは、全身にワイバーンの炎のブレスを浴びながらも、そのまま炎をもろともせずワイバーンに接近すると、ワイバーンの硬い鱗に守られた胴体を爪で大きく切りつける。
その結果、硬い鱗ごと斬り付けられたワイバーンは、大量の血しぶきと共に大きな悲鳴を上げながら地面に落下していく。
「くそっ! なんなんだ!? あんなちっこいのに、俺のワイバーンがやられたのか!?」
驚くダンだが、すぐさま気を取り直してカーバンクルの背後を一気に斬りかかる。
それは、身体強化魔法により超速で撃ち込まれた一撃であったが、カーバンクルは迫り来るダンに気が付くと、それを上回るスピードで簡単に剣撃を躱す。
そしてそれと同時に、そのままダンの胴体をその鋭い爪で切りつけた。
「なん、だとっ――!?」
ダンは咄嗟に回避を試みるものの、脇腹を爪で深く切りつけられてしまい、血を流しながらその場に蹲ってしまう。
「よくもダンを!」
そう叫びながら、サリーは雷属性の魔法を付与した木刀でマーレーに斬りかかる。
また逆サイドからは、グレーターグリーンドラゴンがその大きな牙を広げながらマーレーに襲いかかる。
「――魔導の六、アイスワールド」
しかし、それでも表情一つ変えないマーレーは、アイスワールドを唱える。
そして次の瞬間、襲いかかるサリーとグレーターグリーンドラゴンは、その足元から凍りついてしまいその動きを止められてしまうのであった。
「なっ! なんだいこれは!?」
驚くサリーであったが、事態は動きを止められただけでないことにすぐに気が付く――。
足元から腰、そして胸元へと、次第に下から上へ身体が凍りついていくのであった。
「ちょ、ちょっとこれ、洒落にならないんだけど!?」
焦るサリーは、必死に逃れようと身体を動かそうとするも、しっかりと凍りついていく身体は全く言う事を聞かず、既に首元まで凍りついてしまっている。
それはサリーだけではなく、あの巨大なグレーターグリーンドラゴンをもってしても同じであった。
マーレーの前には、まさに絶対不可避の氷の世界が広がっていた――。
「わ、分かった! 降参! 降参だよ!!」
「そう」
打つ手なしとなったサリーは、慌てて降参を告げる。
するとマーレーは、興味無さげにそれを受け入れると、すぐに魔法を解いて氷を打ち消す。
こうして、クレアと同様にマーレーもまた、難なく勝利を上げたのであった。
普段から謎に満ちているマーレーだが、まさかのサミュエル団長と同じ魔導の六を使っても尚、まだ本気を出しているようには見えないのであった――。
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