第27話 クラス対抗戦④

 マーレーの活躍により、マーク達から放たれたファイヤーボールは無効化

 された。

 しかし安堵したのもそれも束の間、今度は相手陣営から激しい足音が聞こえてくる。


「な、なによあれ!? ドラゴンの群れじゃない!!」


 逸早くそれに気付いたクレアが叫ぶ。

 そして激しい砂埃の中から、レッサードラゴンが五体、それにグリーンドラゴンが三体の、計八体ものドラゴンがこちらを目掛けて突進してきているのであった。

 どうやら、相手の陣営より使い魔のみこちらへ向けられたようだ。


「私が行くわ!」


 危機感にみんなが慌てる中、そう言ってクレアが一歩前へ踏み出す。

 そして、自らの使い魔であるペガサスを召喚すると、そのままペガサスに跨がり上空へと飛び立っていった。


 クレアを乗せたペガサスは、グレーターグリフォンよりも速い速度で移動する。

 そして、あっという間にドラゴンの群れの上空までたどり着いた。


「アンタ達にはとっておきをあげるわ! 魔導の五――ライトニングレイン!」


 その宣言と共に放たれたのは、魔導の五――ライトニングレイン。

 無数の光の矢が上空に出現すると、クレアの合図に合わせて一斉にドラゴンの群れ目がけて降り注ぐ。

 その速度は凄まじく、ドラゴン達は躱す暇なくその身を光の矢に串刺しにされる。


 さすがの一言だった。

 まだ学生であるにも関わらず、魔導の五ほどの高位の魔法を扱うことが出来るなんて――。

 これも、アスタロトさんによる指導の賜物と言えるだろう。

 クレアは常にアスタロトさんに対して、ライバル心のようなものを剥き出しにしていただけに上達も早かった。

 それは元々、クレアが魔法の才能に恵まれていたからこそとも言えるだろう。


 結果、クレアの放った魔法によりレッサードラゴンは再起不能状態となる。

 しかし、グリーンドラゴンはその身に光の矢を浴びながらもその歩みを止めず、そのままこちらへ突進してくるのであった。


 アスタロトさん程の超越者からしてみれば、グリーンドラゴンはただの食糧でしかないのかもしれない。

 けれど、全身に光の矢を浴びても尚、その動きを止めないグリーンドラゴン。

 その姿はまさに化け物で、普通の人間ならば瞬殺されてしまうような恐ろしい存在――。

 本来、グリーンドラゴンとはそこに存在するだけで災害級の存在であるという事を、アルスは再認識させられる。


 そしてそんなことを考えていると、グリーンドラゴンはすぐ目前まで迫っていた。

 クレアもまさか先程の魔法で止まらないとは思っていなかったようで、慌ててこちらに戻ってくるも間に合いそうになかった。


「行け! レッドドラゴン!」


 すると、その状況を前に今度はスヴェン王子が一歩前に出る。

 そして召喚したのは、使い魔であるレッドドラゴンだった。


「グォオオオオオ!!」


 グリーンドラゴンより一回り大きいレッドドラゴンは、グリーンドラゴンを威嚇するようにその大きな翼を開き雄叫びを上げる。

 そして、その大きな翼で爆風を巻き起こしながら飛び上がると、グリーンドラゴン目がけて炎のブレスを吹きかける。


 炎のブレスは爆炎となり、グリーンドラゴンの周囲を一瞬にして火の海へ変える。

 その結果、グリーンドラゴンは逃げ道を失い、あとはもうその炎に身を焼かれるのみとなる。

 大きな鳴き声と共に、力尽きて横たわる三体のグリーンドラゴン。

 元々クレアの魔法で消耗はしていたけれど、それでも一撃で三体同時に撃退して見せたレッドドラゴンの力は本物だった――。


 こうして、こちらの奇襲を防がれたのと同じく、相手のクラスの奇襲も封じてみせた。

 ここまでの戦いは、まさしく互角と言えるだろう。

 それでも、こちらにはマーレー、クレア、そしてスヴェン王子という実力者三人がいてくれるおかげで、最終ラインの守りは盤石と言えた。


 更には、スヴェン王子のレッドドラゴンにクレアのペガサスだってついているのだ。

 学生相手には、最早過剰戦力と言えるその戦力。

 これにはさすがのマーク達も、警戒の色を強めていた。


 だが、次の瞬間だった――。

 突然、スヴェン王子の召喚したレッドドラゴンが、大きな悲鳴をあげながらその場に倒れてしまったのである――。


 その光景に、ここにいる全員何が起きたのか理解できなかった。

 ただ訳も分からず、レッドドラゴンという超上位魔物が倒れる姿を呆然と見ることしかできなかった――。


 ――一体、何が……。


 それはアルスも同じで、ただ呆然とレッドドラゴンの姿を見る。

 すると、そんなレッドドラゴンの巨体の影から、一人の女性が姿を見せる――。

 そしてその女性は、余裕のある様子でゆっくりとこちらへ近付いてくるのであった。


「まさか、アサシンオーガ……」


 恐らくこの女性に、自分のレッドドラゴンを倒されてしまったスヴェン王子は、驚いた様子でそうポツリと呟く――。


 アサシンオーガ。

 それは、使い魔として召喚される事は非常に稀と言われている、召喚によって現れる中では最強クラスと言われる恐ろしい存在。

 相手の影に潜り、一撃で獲物を仕留める事ができると言われている、言わばチートモンスターだ。


 その姿は、和服のような服を着ており、一見人間のようではある。

 しかし、その額からは二本の角が生えており、そして口には二本の鋭い牙を持っている。

 黒髪でサラサラのショートヘアーは美しく、これが人間ならば相当な美少女だろうなという感じだ。

 だが、相手はあのアサシンオーガ。

 美少女どころか、その実力はレッドドラゴンですら全く敵わない程の強力な魔物なのである。


「マーク、約束通りこいつは仕留めといたぞ」

「あぁ、ご苦労だった。あとは俺達でケリをつけるから、お前はお前の目的を果たすといい」

「分かった、そうさせて貰おう。――私は、自分より強い者を求めている」


 そう言うと、アサシンオーガは影に吸い込まれるようにその場から消えていってしまった――。


「そこのお前、アルスと言ったか。お前の使い魔は使わないのか?」


 丘の上から、マークはアルスを指差しながらそう尋ねてくる。

 しかし、アルスはこのクラス対抗戦でアスタロトさんの力を借りるつもりはない。


「ええ、今回はアスタロトさんの力は借りないつもりです。だってこれは、僕達の戦いですから」

「使い魔も、己の武器の一つだろ?」

「ええ、そうです。――でも、それで勝っても嬉しくなんてありませんからね」

「……お前の使い魔がいれば、我々に勝つことなど容易いと、そう言っているのか? ――これはこれは、一度も勝利した事がないお前らに、随分と舐められたもんだな」


 苛立つように、そう吐き捨てるマーク。

 しかしアルスは、そんな相手を挑発するつもりで言ったわけでは無かった。

 ただ事実として、もしアスタロトさんがこのクラス対抗戦に参入すれば、それは一瞬にして決着してしまうのだ。


「いいだろう! 今、俺の使い魔であるアサシンオーガのミスズが、お前の使い魔のところへ向かっているはずだ! 世間知らずなお前に教えてやろう! 自称悪魔など、真の実力者の前では無力だとな! すぐにミスズが、お前の使い魔の首をここへ持ってくることだろう!」


 そうマークが叫ぶと同時に、突如上空からマークの目の前に物凄い勢いで何かが落ちてくる。

 それが何かを確認すると、たった今マークが語ったアサシンオーガのミスズだった――。

 既にミスズは満身創痍の状態で、動けるような状態ではなかった。


「なっ!? ミ、ミスズ!? おい、何があった!?」

「――ふむ、急に我の前に現れて刃を向けられたのでな。戦いに介入するつもりなどなかったのだが、仕方なく貴様に返しにきたのだ」


 困惑するマーク。

 すると、気が付くとマークのすぐ隣に姿を現したアスタロトさんが、平然とした様子で返事をする。


「い、いつの間に!? き、貴様! ミスズに何をした!?」

「デコピンだ」

「デ、デコ!?」

「なんだ、知らんのか。デコピンとは指をこうしてから、こうするのだ」


 そう言ってアスタロトさんは、誰もいない方向へデコピンをして見せる。

 すると、指からは激しい波動が生まれ、それはそのまま先程マリアナが作った土の壁を破壊する。

 そして尚も衝撃は留まることなく、それまでカール達を相手に優勢に戦っていたマリアナのゴーレムをも砕き、吹き飛ばしてしまう――。


「こんな小わっぱ、デコピンで充分だろう。戦いの邪魔をして済まなかったな。我は再びあそこでお前達の戦いを観戦するとしよう。――アルスよ、頑張るのだぞ」


 それだけ言うとアスタロトさんは、こちらへ向けて軽くウインクをしながら、元いた入り口の方へと戻って行くのであった。


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