第26話 クラス対抗戦③

「さぁみんな、気を引き締めて行こう!」

「「おー!」」


 開始の合図に合わせて、スヴェン王子が皆を鼓舞する。

 そしてその言葉に合わせて、クラスの先鋒隊が相手の自陣目がけて一気に突撃を開始する。


 これは今回用意した作戦の一つで、グレーターグリフォンの召喚に成功した成績上位者二名を先頭に、その他グリフォンを召喚した三人を合わせた計五人で、先手必勝を狙い突撃するという奇策に出たのだ。


 いつもは守備重視のクラスであったことを逆手に取り、今回はこちらから真っ先に仕掛けるという相手の裏をつく作戦だ。


 案の定、相手のクラスは開始早々に撃を仕掛けられた事に困惑しているのが分かった。

 相手のクラスの実力者達は、既に例年通りアルス達のクラスに攻撃を開始していたるため、相手の守りは明らかに手薄となっている。


 しかし、当然相手も守備を無視しているわけではなかった。

 突撃するグリフォン部隊だが、突如発生した激しい風圧によりその動きを止められてしまったのである。


 風圧の発生元、それは巨大なゴーレムの仕業だった。

 ゴーレムと言えば、スヴェン王子のレッドドラゴンに匹敵する程の超上位魔物に分類される化け物だ。

 大きな岩を積み上げた、文字通り動く岩山である。

 その高さは十メートル以上はあり、そこに存在するだけでかなりの威圧感を与えてくる強力なモンスターだ。


「うふふ、そう簡単にはやらせないわよ。こっちだってちゃんと対策はしてるんだから」


 ゴーレムの肩に座る一人の女性――。

 それは、このゴーレムを使い魔に従えるマリアナ・キーエンスであった。

 マリアナは、学年でもトップ5を常にキープしている成績優秀者であり、特に錬成魔法においては学年でも右に出る者はいないとまで言われている実力者だ。

 そんなマリアナが、今年は突撃隊ではなく守備に回っているのであった。


 ――なるほど、相手もちゃんと作戦を立てているようだ。


 相手の旗の前には、巨大なゴーレム。

 これでは、いくらグリフォンとはいえ近付くことすら容易ではないだろう。

 さすがはマリアナだ、彼女ならゴーレムを召喚できたのも納得だった。


「――魔導の四、サンドウォール!」


 そしてマリアナは、すぐに魔法を展開する。

 唱えたのは、魔導の四サンドウォール。


 マリアナのその魔法により、グリフォン部隊の前に巨大な砂の壁が出現する。

 高さは優に二十メートルは越えているだろうか、これではいくらグリフォンが飛行しているとは言え進行を塞がれてしまう。

 そしてこの壁の向こうには、マリアナの従えるゴーレム。

 まさにマリアナ一人の活躍により、相手クラスの守りは盤石と言えた。


「クソッ! まずはゴーレムの処理からだ! ――いくぞ! 魔導の三、エアカッター!」


 しかし、うちのグリフォン部隊のリーダーを務めるカールは冷静だった。

 すぐさま状況を判断し、まずは倒すべき相手を即座に判断する。


 そして放ったのは、エアカッター。

 生み出された激流は風の刃となり、ゴーレムに向かって鋭く放たれる。

 その結果、ゴーレムの胴体の一部が弾け飛ぶ。


「よし! 効いてるぞ!」


 有効性を目視できたカールは、そう言って仲間を鼓舞する。

 しかし、ゴーレムは胴体の一部を破損しようとも、その動きを止めることはなかった。

 振り上げたその巨大な拳を、グリフォン部隊目がけて一気に振り下ろす。

 動きの速いグリフォンは即座にその攻撃を避けるも、それはまさに天空から巨大な岩石が降ってくるようなもの。

 大地を砕き、生み出された爆風がグリフォンの自由を奪う。


「おいおい!? あんなの食らったら、普通に即死だぞ!?」

「あら? あとで治癒魔法で優しくたっぷり癒してあげるから、安心して食らって頂戴な」


 カール達は、ギリギリのところで攻撃を躱せたものの、そのあまりの威力に怖気づいてしまう。

 もしあれが直撃したらと考えるだけで、まだ学生であるカール達は死の恐怖を感じてしまったのだ。

 そんな怖気づくグリフォン部隊を前に、マリアナは余裕の態度で微笑む。

 こうして、マリアナ一人にこちらの先手必勝の奇策は封じられてしまったのであった――。


 しかし、それはこちらだって想定はしていた事だ。

 まずは相手に奇襲をかける事に成功しただけでも成功と言えるだろう。

 少なくともこれで、相手陣営を動揺させられたはず――――、


「おいおい、よそ見してると怪我するぜ?」


 しかし、アルス達守りの陣営に対して、話しかける人物が一人――。

 その声に慌てて振り向くと、突如としてファイヤーボールが放たれる。

 数にして五つ。ファイヤーボールは魔導の四に該当する上位魔法のため、その威力も凄まじい。

 見れば、人知を囲う岩壁の上にはマーク達相手のクラスの特攻隊メンバーが、こちらを蔑むように見下ろしていた。

 そんな完全にこちらの意表を突く強力な攻撃を前に、うちのクラスに動揺が広がる。

 しかしそんな中でも、一人冷静なマーレーが一歩前に歩み出る。


「――任せて」


 そう言うとマーレーは、放たれるファイヤーボールの前に魔導の四アイスウォールを展開する。

 さきほどマリアナが唱えたサンドウォールが砂ならば、こちらは巨大な氷の塊。

 それは放たれたファイヤーボールとも相性が良く、高密度な氷の障壁はファイヤーボールを全て防ぐと、そのまま飛散していく。


 さすがはマーレーだ――。

 あの強力な魔法を、全て一人で受け止めて見せたのであった。


「――ちっ、出鱈目だな」


 それには、さすがのマークも憤りを隠せない様子だった。

 こうして開始から僅か、お互い一歩も引かない攻防が開始されたのであった。


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