第20話 組み立て②
アスタロトさんの扱う、そのあまりに圧倒的な魔法。
この世の奇跡に、クラス中が静まり返る。
一番傍にいるアルスであっても、それは同じだった。
これまで見せてきた魔法の数々には、ずっと驚かされっぱなしだ。
「ならば……、ならばどうすればよい……のですか……?」
しばしの沈黙の中、絞り出すようにルドルフ先生が小さく呟く。
「どうすれば……どうすれば、我々にもそのような魔法が扱えるのですか……?」
「ふむ、お前達には無理だな」
「なっ!?」
プライドも何もかも捨て、懇願するように質問をするルドルフ先生。
しかしアスタロトさんは、その問いかけをバッサリと切り捨ててしまう。
「まず、サミュエルと言ったか? あやつの魔力量であっても、魔導の七程度が限界であろう。要するに、お前たち人間はより高度な魔法を扱うには根本的に魔力量が足りなすぎる。そして二つ目に、お前は魔法を研究する立場でありながら、魔法をイメージで操るまでに至ることが出来なかった。それが意味するのは、やはり根本的にお前達は、魔法というものの本質を理解できていないということだ」
淡々と理由を話すアスタロトさんは、次にアルスの方を向く。
「そうだな――我の主であるアルスの方が、お前などより遥かに魔法の理解度は高いと言えよう」
……え? 僕がルドルフ先生より理解している?
えっと……アスタロトさん? それは絶対に何かの冗談ですよね?
「わ、私がただの生徒より劣っているとでも言うのかね!?」
「あぁ、そうだ。その何よりもの証拠として、アルスはこの我を召喚したのだ」
確かにアルスは、何故かアスタロトさんを召喚してしまった。
けれどそれはただの事故だし、常に成績が中の下のアルスがルドルフ先生より優れてるなんて事は絶対にない。
「すみません、横から失礼します。あの時アルスくんの展開した魔法陣は、赤い色をしていたと聞いています。それがこの話と、何か関係しているのでしょうか?」
神妙な顔をしながら、スヴェン王子がアスタロトさんへ質問する。
たしかにあの時、アルスの使い魔召喚の魔法陣は赤色をしていたけれど、あれが理由でアスタロトさんを呼び寄せたという事だろうか――。
「それは、我が魔法陣を重ね合わせたからだ。生憎アルスの魔力量では、我の元へ繋げるには至らなかったからな。通常の使い魔召喚の魔法は、召喚者の力量に合わせて魔界へと繋がるものだが、アルスは我の住む世界へと繋げたのだ」
「……その、アスタロトさんの住む世界というのは?」
「この世界でも魔界でもない、別の世界とでも言っておこう。通常人間など踏み入れる事などできぬ、神域なる場所だ」
神域なる場所――アスタロトさんがここで嘘を付く必要はないから、それは本当にそうなのだろう。
だとすると、そんな人間が踏み入れる事なんて出来ない場所に、どうしてアルスの使い魔召喚魔法が干渉してしまったのだろうか――。
「これまで、我らの世界に干渉出来た人間は二人だけだ。一人はここにいるアルス。そしてもう一人は――クリス・クリストフ」
「ク、クリス・クリストフだと!?」
思わぬ大物の名前に、ルドルフ先生が驚きの声を上げる。
アルス自身、まさか自分があのクリス・クリストフと並べられている事に、全く理解が追い付かなかった。
だが、そこでアルスは一つのことに気が付く。
何が他のみんなと違ったかと言えば、アルスは使い魔召喚の魔法を絶対に失敗したくないという思いから、魔法陣を何度も何度も微修正していたのだ。
もしかして、それが――。
そう思い、アルスは確認するようにアスタロトさんの方を向く。
するとアスタロトさんは、アルスも気が付いたかというように、満足そうに口元に笑みを浮かべる。
「クリスと同じくアルスは、使い魔召喚の魔法を作り替えて我らの住む世界へと繋げたのだ。正確には、元々クリスが我らの世界へ繋げる魔法を生み出し、それを改変して魔界へ繋げるようにした物が使い魔召喚魔法だ。つまりアルスは、クリスが改変した魔法を、元の形に戻したという事だ」
「そ、そんなはずがない! 使い魔召喚の魔法陣こそ、数多ある魔法陣の中でも最も完璧に完成されたものだ!!」
「お前達人間の常識から言えばそうなのだろう。だがアルスはその前提を覆し、本来の魔法を導き出したのだ」
「バカな! アルス・ノーチェスと言ったかね、君は一体何をしたと言うのだね!?」
絶対に認められないというように、ルドルフ先生は食い入るようにアルスに質問してくる。
その迫力に若干怖気づきつつも、アルスは素直に自分のした事を説明する。
「え、えっと、使い魔召喚を絶対に失敗したくなかったので、僕はずっと魔法陣の成り立ちについて毎日解析をしておりました。そしたら、違和感というか、ここをこうした方がもっと効率が良いんじゃないかな? って箇所が複数見つかったので、その……全部直して魔法陣を展開してみたら、物凄くキレイに魔法陣が展開されたんです。だから、これなら絶対に失敗しないなと思い当日を迎えました」
「ふむ、それはアルスが魔法陣そのものが持つ意味を理解したからこそ出来たことだ。クリス自身、この魔法陣の違いに気が付く人間などいないと断言していたからな。何故なら、それはイメージで魔法を扱う事より遥かに高度な事だからとな」
アルスの拙い説明を、アスタロトさんが補足してくれた。
しかし、アルスが無自覚でやった事が、どんどんと大きな話になっていってしまう……。
「なるほど、アルスくんは言わば魔法の深淵に触れたという事でしょうか。すまないが、アルスくん。僕達に、もう一度その魔法陣を見せて貰えないかな?」
スヴェン王子に頼まれたので、アルスは言われた通り使い魔召喚の魔法陣を展開した。
「こ、これは……確かに似ているが、術式が異なる上、元々信じられない程高かった魔力効率が数段高くなっておる……。元々下級魔法でありながら、消費魔力が少なく複雑な構造をしているとは思っていたが、これが真の姿だと言うのか……」
「確かに、これは僕達のものとは全然違うと言わざるを得ませんね……」
アルスの魔法陣を見て、ルドルフ先生が驚きの声を上げ、そしてスヴェン王子は納得するように頷く。
「デモンズロードゲート。この魔法は、魔導の十二に属する魔法だ。お前達人間の標準では、未知の領域であろう」
なるほど、この魔法はデモンズロードゲートって言うのか……。
というか今、魔導の十二って言いました!?
魔法陣に全員が驚く中、アスタロトさんは更にとんでもない事を平然と教えてくれたのであった。
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