第18話 昼休み
魔法の実践授業も無事? 終わり、午前中の授業はこれで全て終了し昼休みの時間となった。
昼休みは各々弁当を持参するか、もしくは学校の食堂で済ます事となっている。
アルスは弁当なんて作った事が無いため、アスタロトさんを連れていつも通り食堂へ向かう事にした。
しかし、教室を出て廊下を二人で歩いていると、丁度隣の教室から出てきた人と鉢合わせてしまう――。
「ふーん、お前が今噂の、大悪魔アスタロトさんかい? こうして見ると、普通の女にしか見えねーな」
アスタロトさんに対して、まるで期待はずれだと言いたげにそう吐き捨てたのは、隣のクラスのマーク・ダレス。
ダレス家と言えば、アルブール王国の公爵家の一つで、過去の戦争において大きな実績を残し続けている名家だ。
魔法の実力はもちろん、ダレス家の特徴は剣術にも優れており、魔法と剣術を組み合わせたダレス流と呼ばれる戦い方を得意としている。
そんなマークの父にして、現ダレス家当主であるニック・ダレスは、アルブール王国近衛騎士団長を勤めている程の実力者。
ここアルブール王国において、ニック騎士団長とサミュエル魔術師団長こそが、この国を護る二本柱として国内外に広く知れ渡っているのだ。
そんなダレス家の長男であるマーク自身も、その実力は確かなものだ。
学生であるにもかかわらず、その実力は既に魔術師団に入団して中核を担える程と言われており、こと戦闘においては学年でも一番だと言われている。
魔法に関する成績で言えば、スヴェン王子やクレアの方が上なのだけれど、戦闘だけに限れば、この学校にマークに敵う相手など誰もいないと言われている程だ。
実際、過去のクラス対抗戦においても、アルス達のクラスはマーク達のクラスに一度も勝ててはいないのだ。
それ程までに、戦闘においてはクラス間の実力が明確に差が生じてしまっているのであった。
過去のクラス対抗戦でも、アルス達のクラスは良いところまでは行くのだ。
スヴェン王子やクレアを中心として、序盤は魔法による制圧で優勢に戦況をコントロールする事が出来ている。
では何故、それでも敗けてしまうのかと言うと、それは最終的には、近接戦闘を得意とするマークを中心とした精鋭グループが奇襲をかけてくるからである。
近接戦となれば、魔法よりも剣術の方が格段に有利なため、毎回アルス達のクラスはマーク達の奇襲に耐え切れず、結果良いところまでいくも惜しくも負け続けているのであった――。
そんなマークと言えば、赤い短髪がトレードマークで、背が高く全身筋肉質である事から、学年――いや、学校内でも多分一番身体が大きい。
そのため、例えならばスヴェン王子が美の象徴なら、マークは男らしさの象徴として、女子からの人気を二分していたりもする。
そんな、スヴェン王子とマーク、この二人が同学年に在籍するアルス達の学年は、これまでこの二人を筆頭にお互いを切磋琢磨出来る関係だと思っていただけに、マークがこんな横暴な態度を取っている事に正直驚いている。
「アルスよ、こやつはなんなのだ?」
「あ、はい。隣のクラスのマーク・ダレスです。スヴェン王子と同じく、マークは隣のクラスの主席で、クラスを引っ張っているリーダーのような人です」
「ふむ、リーダーか。しかし、ここには我と己の力量の差にも気付かず、不敬な態度を取る人間が多すぎないか?」
またかというように、やれやれと呆れるアスタロトさん。
今のアルスは、全くもってアスタロトさんの意見に同意だった。
どうしてみんなは、こうもアスタロトさんの実力を受け入れないのだろうかと。
「ほう、貴様。このダレス家長男の俺を前にして言うじゃねーか。大悪魔だかなんだか知らねーが、今俺に対して取った態度、忘れんじゃねーぞ。そうだな、今度のクラス対抗戦楽しみにしとけ。今年も俺達のクラスが圧勝してやるからよ」
マークは勝ち誇るようにそう言うと、アルス達の前から去って行った。
「ア、アスタロトさん? 大丈夫ですか?」
「ん、なんだ? 心配してくれているのか? 可愛いなアルスは。我はあの程度の煽り、なんとも思わん」
そう言うと、怒るどころか上機嫌な様子でアスタロトさんは歩きだす。
――いや、どちらかと言うと、マークの身の安全の方を心配していたのだけど……。
なんて本音は、上機嫌なアスタロトさんには黙っておく事にした……。
マークの言ったクラス対抗戦は、早いもので今週末にある。
これまでは完敗してきたアルス達のクラスだけれど、最高学年である今年は使い魔の使用が許されている。
つまり、この使い魔を上手く利用すれば、最後ぐらいマーク達のクラスに勝てるかもしれない――。
だから今回は、アルスもやれる限りの事を頑張ろうと覚悟を決めた。
……いや、でもちょっと待てよ。
これって、アルスの使い魔であるアスタロトさんが介入した時点で、勝負が勝負じゃなくなるんじゃ……?
でもアスタロトさんは使い魔であり、クラスメイトでもあるし――。
せっかくやる気になったものの、またすぐに頭を悩ませるアルスなのであった。
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