第27話 後始末

 将軍様が暗殺された後、北朝鮮の混乱が収まるまで暫く時間を要した。

 瀋陽軍区の支援する親中派の軍幹部は政権の奪取に失敗し、中国海軍陸戦隊が平壌を包囲するなかで、最終的に政権を握ったのは将軍様の妹だった。

 西側諸国は暗殺は中国によるものだと非難したが、その証拠は見つかっていない。

 中国は北朝鮮北部の保障占領を続けており、それ以外の地域が米中の新たな緩衝地帯として残っている。

 将軍様の妹は核の放棄を宣言して、米中の間を上手く立ち回っている。

 新生北朝鮮には米中双方からの投資が入り始め、これから経済発展を遂げていくだろう。


 タツヤの兄たち、韓国国家情報院のイジュンは極秘ドローンの越境使用を何とか誤魔化せたようだ。

 アメリカ戦略研究所のボブは、新生北朝鮮を西側に引き込む工作を続けている。

 新生北朝鮮を率いる将軍様の妹は、儚げな外見に反して苛烈な性格の人物だった。ボブは米朝の裏交渉時代からカウンターパートとして彼女のことを知っていたが、彼女には何度も煮え湯を飲まされていた。

 将軍様の妹の当面の目標は、保障占領を続ける中国軍を北朝鮮北部から撤退させることだった。

 そのために西側の支援を積極的に受け入れているのだが、彼女の核放棄宣言をどこまで信じて良いものか確信が得られていなかった。

 将来、彼女が兄と同じ野心を抱くようになる可能性は高いとボブは考えていた。

 北朝鮮から核を撤廃することは米中の共通の利益であり、中国による北朝鮮北部の保障占領は米中の密約によるものでもあった。

 しかし、中国の軍事侵攻による国境線の変更を認めることは、悪しき前例となる懸念もある。

 ボブは、新生北朝鮮を西側に親和的な緩衝地帯とするべく、極東の新たな安全保障の枠組みを模索していた。


 統一戦線工作部のワンウェイは、瀋陽軍区が寧辺の核施設から持ち出したと噂される核兵器の情報を追っている。

 中国軍は北朝鮮北部の保障占領地域にある二百カ所の核関連施設を速やかに接収したが、その過程で保管されていた核弾頭数発を瀋陽軍区が極秘裏に横領したと噂されてれている。

 今回、瀋陽軍区の持つ北朝鮮権益に党中央が横やりを入れたことで、瀋陽軍区と党中央の関係は益々悪化している。

 将来、核兵器を持った瀋陽軍区がクーデターを起こすようなシナリオは想像したくもない。

 行方不明になっている核弾頭の回収は喫緊の課題なのだ。 

 将軍様の暗殺が成功しても、不完全な世界の混沌は続き、次の暗殺ターゲットは次々と生まれてくる。

 国連暗殺機関、スミス家の家業はまだ必要とされている。


 平壌の高級アパートに戻った女主人は、ソフィアが姿を消し、寝室のマットがズタズタに切り裂かれているのを発見した。

 女主人はソフィアの行方を追おうとしたが、ソフィアに関する情報がすべてフェイクであったことが判明し、何故かソフィアの容貌すら正確に思い出せなかった。

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