第20話 暗闘

「クーデター計画は実在したってこと?」

 保衛相の報告を受けて、将軍様の妹は眉間に皺を寄せた。

 セシルの話をもとに、親中派の軍高官の身辺を洗い直していた国家保衛省は、クーデター計画は実在すると結論づけていた。

 再開発地区の取り壊し予定の空き家から、国家保衛省の工作員が死体で発見されたことが決め手となった。

 その工作員は親中派の軍高官の動向を追っていたのだ。明らかにプロの手口と思われる死体からは、軍の偵察局の関与が疑われた。だとすれば、クーデター計画は軍内部の広範囲に及んでいる可能性がある。

 事実は全く別にあったのだが、錯誤の積み重ねが保衛相の判断を歪めていた。

「将軍様にご報告して、反乱分子を粛清しなければ」

「ちょっと待ちなさい。開戦直前に軍の高官を粛清なんかしたら、軍の指揮系統はズタズタになるわよ。この件は私が預かります。この話が外に漏れたら、粛清されるのは貴方になるわよ」

 久しぶりの手柄にお褒めの言葉が頂けると思っていた保衛相は、顔面を蒼白にしながら将軍様の妹の前から退席した。


 将軍様の妹はこの状況をどう利用出来るかを考えていた。

 中国が後ろ盾になったクーデター計画が実在しているということは、中国は将軍様を見放したということだ。

 問題はクーデター計画の背後に存在しているのが中国の地方軍閥である瀋陽軍区だけなのか、共産党中央まで巻き込んだものなのかということだった。

 瀋陽軍区だけの計画なら、兄によってクーデターは鎮圧されることになるだろう。

 しかし、共産党中央まで巻き込んだ計画であれば、親中派の老将軍に成り代わって自分が神輿に乗ってみる手もある。

 その状況を探るために将軍様の妹が放ったソナーは、中国軍内部に新たな混乱を生み出すことになる。

 その夜、親中派の老将軍は、将軍様の妹によって秘かに予防拘束された。

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