第17話 ディストピア
タツヤとウジュは売春窟の一室で焼酎を酌み交わしていた。
すでに計画の準備は完了しており、後は、軍事パレードの当日にタツヤがウジュたちと合流し暗殺を実行するだけだ。
成功を期して乾杯した後、ウジュがポツリと尋ねた。
「将軍様の暗殺に成功すれば戦争は止められるのか?」
「可能だと判断している。暗殺実行後の国内の混乱については、俺の仲間が収集する手筈を整えている。但し、保証は出来ない」
タツヤはウジュに正直な状況を話した。
黙っていてもウジュには分かっているだろう。
「なあ、ウジュ。状況がここまで来てしまっていては戦争を回避することは難しい。唯一、戦争を止められる可能性があるのが将軍様の暗殺なんだよ」
「ああ、そうだな。俺たちはやるしかない。だが、どうして我々国民は、こうなるまで気付かなかったのか」
情報統制、洗脳教育、監視社会、考えられる理由はいろいろあるだろう。
しかし、どんな独裁体制であれ、それを支えているのは国民なのだ。戦前のドイツでも日本でも、体制の違いはあるものの、ファシズムを支持し戦争を望んだのは国民だった。
そして、その結果を引き受けるものは国民しか居ない。
北朝鮮では、これまで何度も大量の餓死者を出すような悲惨な状況になっても、民衆の蜂起によってクーデターが起こったことは無い。
北朝鮮では衣食住も仕事もすべて国から与えられる。
貧しくとも将来の不安を抱える必要は無いのだ。
自らで道を切り開くことが出来ない弱い者たちにとって、希望が無くとも将来の不安が無いことは幸福なのだ。
その幸福に安穏と漂うことに慣れてしまった人たちは、自らの命が危うくなってもそこから抜け出せない。
いつの間にか彼らは茹でガエルになってしまっていたのだ。
そのディストピアは、北朝鮮だけでなく何処でも起こり得る。
斜陽の国で将来不安に怯える人々は、不確かな安心と引き換えにデマゴーグに流される。日本でもその兆しは見えつつある。
「ウジュ、お前たちが次に創る国は、希望の有る国にしろよ」
そう言うと、タツヤはドングリ焼酎を飲み干した。
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