第16話  戦争準備

 タツヤたちが暗殺計画の準備を進めている間、北朝鮮軍も戦争準備を進めていた。

 経済制裁により北朝鮮国内は疲弊しており、二年連続の不作で餓死者が相次いでいる。今年も水害の影響を受けており、この冬には体制の維持が不可能になると予想されていた。

 米朝会談による局面の打開は期待できない。北朝鮮が核兵器を放棄しない限り米国は会談に応じようともしないのだ。

 中国からは人道支援の名目で僅かながら物資が流入しているものの、中国はそれを梃に北朝鮮への干渉を続けていた。

 将軍様は核実験や弾道ミサイルの発射で米中に揺さぶりをかけ続けているものの成果は上がっていなかった。

 北朝鮮問題の処理については、米中間で何らかの合意が結ばれたのではないかとの疑念も出てきていた。

 朝鮮半島で再び戦争が勃発した場合、韓国軍と在韓米軍が北朝鮮軍の南下を阻止し、在日米軍が北朝鮮を空爆する。その間、中国軍は中朝国境を越境し百キロを南下、北朝鮮北部を保障占領し、同地域に集中する核施設を接収し核兵器の散逸を防ぐ。これらの作戦行動中に、米中はお互いの行動を妨害しないというのが合意されたとされる内容だ。

 中国は朝鮮戦争以来の北朝鮮の盟友だが、将軍様が中国の影響を排除し、核開発に傾倒したことから関係は悪化している。

 中国政府は、北朝鮮政権が自壊して混乱の中で核兵器が散逸する前に、北朝鮮の体制変換を図ることを決意していた。

 一方、北朝鮮の戦略は、核兵器による恫喝で日米韓の連携に楔を打ち込み、反撃体制が整わない間に一気に武力統一を図り、統一朝鮮となって中国の影響を排除するというものだった。

 一旦既成事実を作ってしまえば、韓国の左派政権は抵抗を諦めるはずだ。北朝鮮軍は、ソウル陥落まで三日、釜山に到着するまで一週間と見積もっていた。

 速戦即決を旨とする戦争計画に従って、北朝鮮軍は三十八度線付近に兵力を集中しつつあった。

 百七十㍉長距離自走砲や二百四十㍉多連装ロケットなど約一千両が三十八度線付近のトンネル陣地に集められていた。これらの長距離砲による砲撃でソウルは火の海になる。

 通常兵器のみでもソウルは落とせるが、武力統一が実現する前に米軍が本格参戦するような事態になれば、将軍様は在日米軍基地への核攻撃を躊躇わないだろう。

 第二次朝鮮戦争は北朝鮮による武力統一が成るか、北朝鮮の体制が崩壊するかの二択しかないのだ。

 ウジュの所属する第一〇五戦車師団も軍事パレード終了後直ちに鉄道で開城に送られ、速戦即決の鍵となる機動打撃力の一部となる。ウジュたちの部隊の進軍スピードが作戦の成否を決定するのだ。


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