第11話 潜入

 東富士演習場での訓練を終えた翌日、タツヤは偽造パスポートで成田から中国の大連へ飛んだ。

 大連でワンウェイと合流したタツヤは彼の車で丹東へ向かった。 

 数時間走って丹東に到着した時にはすっかり夜になっていた。

 鴨緑江沿いにある人気のないコンテナヤードに、ワンウェイは車を停めた。

「ここだよ」

 そのコンテナヤードには、北朝鮮に向かう通関待ちの貨物が置かれていた。

 その日の通関手続きは終わっており、トレーラーの運転手たちはすべて宿舎に引き上げていた。

 ワンウェイは手に入れた通関書類の写しとコンテナの番号を照らし合わせて行く。

「これだよ。間違いない」

 ワンウェイはトレーラーに載せられた一台のコンテナを指さした。

 そのコンテナには、ソフィアが取り寄せたイタリア製の高級ベッドが積み込まれている。

 ワンウェイがナンバー式の南京錠を開け、二人は素早くコンテナの中に滑り込んだ。ワンウェイがペンライトで照らした先にはキングサイズのベッドが置かれていた。

「急ごう」

 タツヤはベッドのカバーをはぎ取ると、サバイバルナイフでウレタン製のマットに人型の穴を切り出し始めた。切り出したウレタンの屑をワンウェイが回収していく。

 やがて、すっぽりと人が収まる程度の穴が開けられ、その中にタツヤが潜り込む。

「じゃあ、あとは頼んだぞ」

 そう言うと、タツヤはテトロドトキシンを含有する錠剤を飲み込んだ。これでタツヤは72時間に渡って仮死状態となるはずだ。

 ワンウェイはホームセンターで買ったウレタン材のスプレー缶を取り出すと、発泡性のウレタンフォームでタツヤの身体を埋め戻し覆い隠していく。小さい呼吸穴だけが開けられたウレタンマットは、その中に人が入っているとは想像もつかない。

 ベッドカバーを再び被せ、作業の痕跡を全て消すと、ワンウェイは独りでコンテナから脱出した。すべては音もなく闇の中で行われ、それに気づいたものは誰一人居なかった。

 翌朝、タツヤを載せたコンテナが通関手続きを終え、鴨緑江に掛かる中朝友誼橋を越えていったのを確認して、ワンウェイは北京に帰っていった。


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