第10話 平壌
ソフィアが平壌で滞在している高級マンションは、73号棟と呼ばれており、行政街区を挟んで、一般の住宅街区と反対側の場所に建っていた。
そのマンションは労働党幹部や軍の高官たちが愛人を囲うために利用されているものだった。モランボン楽団を引退した女優や、幹部が海外の赴任地から連れて帰って来たらしい外国人女性なども居住している。
北朝鮮の一般住宅では、相互監視のための隣組組織が置かれるが、このマンションでは住民相互のかかわりは乏しかった。
また、幹部たちが秘密の逢瀬を楽しむために、人の出入りに関しては意図的にセキュリティが下げられている。
住戸の間取りは1LDKで、生活サービスのためにコンセルジュが常駐するサービスアパートメントだったが、コンセルジュには「見ざる・聞かざる・言わざる」が徹底されていた。
毎週末、ソフィアの部屋には丹東から女主人がやって来ていた。
今、ソフィアの小麦色の肢体には、醜い脂肪の塊が圧し掛かっていた。
狭いベッドに縫い付けられ、首筋から乳首、臍へと女の舌が這いまわっている。
ソフィアは息を喘がせながら、背筋を這いあがってくる悪寒に耐えていた。
ナメクジのように這いまわる舌が臍から下へ動いてきた時、ソフィアは嬌声を挙げ腰を跳ね上げた。
突然、顎を突きあげられた女主人が、バランスを崩してベッドから転がり落ちる。
「いたあい」
床に頭を打ち付けた女主人が悲鳴をあげた。
「ごめんなさい。大丈夫ですか」
ソフィアは床に倒れた女主人を白々しく介抱する。
キッチンから持ってきた氷で女主人の頭を冷やしてやりながら、ソフィアは甘く言葉を囁く。
「ベッドはもっと大きいものに買い替えましょう。こんな狭いベッドじゃ一緒に寝ることも出来ないわ」
女主人はソフィアのおねだりに満更でもない様子だ。
甘言を囁きながら介抱を続けていると、やがて女主人は鼾をかきながら寝入ってしまった。
これもすべて計画通りの行為だった。
しかし、静かに寝室を出たソフィアは、耐えきれないように廊下にしゃがみ込むと、ポツリと呟いた。
「タツヤ兄さん、早く来て」
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