第7話 情報収集 2

 その夜、タツヤはリビングにある四十インチの液晶TVの前に座り込んでRPGに興じていた。

 パーティを組んでダンジョンを攻略し、魔王を討伐するというありきたりな設定だが、人気が高く世界中に愛好者が存在する。タツヤはパーティメンバーとチャットをしていた。

「オーク将軍はダンジョンに籠り切りのようだね」

「将軍様を討つには、謁見の間に出て来る時を狙うしかないな」

「将軍様を討ったとして、ダンジョンからモンスターが溢れ出さないか?」

「北と南の出口は固めてある。モンスターは南に集中しているので溢れるとしたら南側だが、準備は出来ている」

「北の方も大丈夫だよ。いざとなったらダンジョンに踏み込んで混乱を抑える手はずだ」

 傍から見ると遊んでいるだけのように見えるが、タツヤの組んでいるパーティは特殊だった。

 パーティメンバーの魔術師はアメリカ戦略研究所のボブ。戦士は韓国国家情報院のイジュン。アーチャーは環球時報の記者、すなわち中国共産党統一戦線工作部の工作員であるワンウェイ。すべてタツヤの兄達だった。

 二十九人の兄妹たちは世界各国に散り、各国で枢要な地位に就き任務に備えている。

 兄妹たちの間のやり取りには様々な手段が用いられるが、PRGを使った連絡も手段の一つだ。

 防諜のためチャットはすべて隠語で行われ、ボブは娘のアカウントを使っているのだろう、アバターは可愛らしい魔法少女だった。

 タツヤたちはオーク将軍=北の将軍様の暗殺計画を固めるために最終的な打ち合わせを行っているところだった。

「ダンジョンの封鎖がかなり効いているから、間もなく将軍様は暴発するはずだ」

「討伐を急ぐ必要があるな」

 現在、北朝鮮は国連による経済制裁下にあり、二年連続の凶作により大量の餓死者を出していた。

 国民生活が疲弊しているにもかかわらず将軍様は核開発に地道を上げ、盤石とも思われていた支配体制にも綻びが出来つつあった。

 将軍様が国民の不満を逸らすために冒険主義的な行動に出る可能性が高まっていた。

 北朝鮮は経済疲弊によって通常戦力を満足に動かせない。将軍様が頼りにするのは国力を傾けて開発した核兵器しかない。

 将軍様の暗殺については、スミス家の家族会議で既に実行が承認されていた。

 諸般の情勢を考えると、早急にに暗殺を実行しなければならないだろう。追い詰められている将軍様は、近いうちに核で米中を恫喝し、三十八度線を越え南進を開始するはずだ。

 しかし、暗殺実行の機会は限られている。保安上の理由から将軍様は殆んど表に姿を現さないのだ。

 影武者では無く本人が確実に姿を現す機会は、建国記念日に行われる軍事パレードしかないだろう。

 軍事パレードの当日に、タツヤは金日成広場に立っていなければならなかった。残された時間は少ない。

「ダンジョンの最奥部にどうやって潜り込む?」

「囚われの姫が手引きをしてくれる」

「了解した。討伐後の処理はこちらに任せてくれ」

「吉報を待つ」

「じゃあ、またな」

 計画は引き返し不可能点を越えていた。ソフィアと共に更に計画の詳細を詰め、確実に暗殺を実行しなければならない。

 ソフィアは丹東に戻った後、財閥の現地支配人として平壌に派遣されることになっている。平壌に送り込まれたソフィアが、タツヤの北朝鮮への潜入を手引きするのだ。

 それはタツヤたちが予め仕込んでいたハニートラップだった。レズビアンである女主人が鳥籠に愛人として囲い込むため、ソフィアの平壌派遣は決められたのだ。

 今回の任務もソフィアにとって辛いものになるだろう。

 しかし、ソフィアを気遣ってやる余裕は無かった。

 ソフィアが北朝鮮に入ってしまえば、タツヤと連絡を取る方法は無い。それまでの間に、あらゆる事態を想定した計画をソフィアの記憶に刻み込んでおかねばならないのだ。

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