第6話 情報収集

 昨夜の夕食はタツヤが作った。

 タツヤのベッドでシーツを巻き付けて眠るソフィアの代わりに、簡単にパスタを茹でサラダを作ると、ソフィアを起こして二人で食べた。

 ソフィアはタツヤに甘えたがった。べったりと抱き着いて来るソフィアの髪を撫でながら、夜遅くまで二人で星空を見上げていた。

 僧院に居た頃も、毛布に二人で包まりながら星空を見上げていたものだった。

 翌朝、タツヤが起き出した時には、ソフィアは既に朝食の用意を整えていた。

 麓の牧場で買ったベーコンとスクランブルエッグ、地野菜を使ったサラダとスープに、別荘族御用達のベーカリーのクロワッサンの朝食だ。

 ソフィアは気持ちを切り替えたのだろう。メイドとしての完璧な仕事を披露した。

 タツヤも改めて気を引き締め直した。

 ソフィアはこの二年間、北朝鮮の情報を収集するために、中国丹東市にある中朝貿易で財を成した新興財閥に潜入していた。

 今回、ソフィアを呼び戻した理由は、ソフィアが収集した情報を確認し、タツヤが北朝鮮に潜入する計画を練る為だった。

 ソフィアが日本に居ると言う事は誰にも知られていない。父親の葬儀に参列するという理由で短い休暇を貰い、故国に帰ったソフィアの足取りはマニラで途絶えている筈だ。

 ソフィアには見たものや聞いたものを完全に記憶できるという特技があった。それはスミス家の特徴でもある驚異的な集中力の賜物だ。

 ソフィアは中朝貿易を行う女主人に随伴して平壌を何度も訪れており、あらゆる情報媒体の国外への持ち出しが不可能な北朝鮮で、ソフィアが記憶として持ち出す情報は一級の価値があった。

 中朝貿易には政治が色濃く関与している。

 財閥は中国の地方軍閥である瀋陽軍区が後ろ盾となっており、親中派の北朝鮮軍高官と太いパイプを持っていた。

 瀋陽軍区は財閥を通じて北朝鮮国内の鉱物資源に権益を持っており、北朝鮮軍は財閥を通じて軍用燃料を確保している。財閥からは瀋陽軍区と北朝鮮軍の高官に多額の賄賂が流れていた。

 その関係を維持するために、財閥は軍高官たちの情報を保険として集めていたのだ。

 その情報を扱っているのは女主人だったが、ソフィアもその立場を利用して情報を集めていた。

 北朝鮮政権内部の情勢や、関係する労働党幹部や軍人たちの腐敗、盗み見た資料の内容から平壌市街の警備配置まで、ソフィアの記憶にはあらゆる情報が詰め込まれている。

 その記憶をタツヤの前で再現し、それを基にタツヤは北朝鮮への潜入計画を作っていくのだ。

 ソフィアに対するヒアリングは三日間に及び、タツヤは必要な情報を引き出し検討しながら、北朝鮮への潜入計画を練り上げていった。

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