第8話 夏の約束①

 8月初旬。

 俺がここに通うようになって、そこそこの時間がたっていた。


 この期間の間で、『関係性は変わったか?』といわれたら、わからない。


 でも、今日も俺はここに来る事を許されている。そして彼女に会って話すことと、彼女の絵を楽しみにしている。


「ほんと……毎日、暇ね。貴方」


「夏休み中だからな。それに暇じゃない、課題してるだろ?」


 俺は数学の課題をとくため、教科書とにらめっこしていた。


 そして彼女はスマホで何かを調べている。きっと何を題材に描くか……考えているのだ。


「昨日から全然、進んでないように見えるけど……」


「ほっとけ。

 俺が頭悪いのはわかってるだろ」


「えぇ、どうしようもなくね。

 でも、今日は教えてあげないから」


「わかってる、絵を描きたいんだろ?」


「そう、昨日は誰かさんのせいで無理だったからね」


「悪かったって」


 しかし、なんで彼女に問題が解けるのかわからない。


 少し教科書を見た程度で、解けるものなのだろうか? 


 ……まぁ、ただ単に俺の知能が相当に低いだけなのかもしれないけど。


「だいたいね……。普通の学生の夏休みは、課題なんてほったらかして、海に祭りにキャンプに行ったりするもんよ。

 …………あぁ、ごめんなさい。貴方、友達いないんだっけ」


「お前なぁ……」

 

「ごめん、冗談」


 彼女はクスクスと笑った。


「どうせ俺はボッチだよ。まぁ、それも外なんて暑くて行きたくないから、むしろ好都合だし」


「……強がることでしか寂しさを誤魔化せないなんて、かわいそうに。でも安心して」


「何が?」


「そんな貴方のために、今日は海を描いてあげてる。感謝しなさい」


「そりゃ……どうも」


「なんだか、感謝が足りないんだけど……。

 やっぱり、やめよ〜うかな〜」


「えっ!? いつも感謝してます!

 海に行くことをできない、俺のために描いてください。お願いします!」


「はぁ……まったく仕方ないな〜。そこまでお願いされたら描いてあげるしかないじゃん」


「はい、ありがとうございます…………って、なんだよこの小芝居は」


「貴方が勝手に乗ってきたんでしょ?」


「俺で遊ぶな」


「別に……いいでしょ? ……友達なんだから」


「えっ? ……まぁ、いいけど」


 どうやら俺と彼女の関係性は、知らない間に変わっていたみたいだ。良かった……報われたというは違うけど、心に背負っていた『何か』を一つ、降ろせた気はした。


「じゃあ、描くからあっち向いてて」


「わかった。できそうになったら、いってくれ」


 彼女は絵を描く間は、顔を見ないでほしいらしく。絵ができるまでは、俺は他の事をして時間を潰さないといけない。


 それには課題がうってつけな訳だ。

 それから3時間ぐらいたって、彼女の絵は完成した。

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