第3話 桜の出会い①
俺は一枚、また一枚と彼女が描いた絵を見て、思い出に重ね塗っていくように、忠実に慎重に間違えないように……心に刻んでいった。
彼女と最初に出会ったのは、高校一年の入学式の日だった。
彼女は入学式をサボって、その時も公園で絵を描いていた。
その日、俺は寝坊のため遅刻していた。
しかも、学校生活で一度しかない体験できない入学式をだ。
ハッキリ言って、もう何をしても間に合わない時間だったけど、初日から不登校は不味いと考えた。
だから駅から大急ぎで走り、こんな事もあろうかと調べておいた、近道となっている公園を通ることにした。
馴染みがない公園に入ると、そこは意外にも広く。整備が行き届いており清潔で、遊具もピカピカ、花壇も手入れがされていて、綺麗だった。 おそらく市の公園だからだろう。
そんな中でも、春だからだと思う……。
考えるまでもなく、当たり前なのだが、桜がよく目立っていた。桜並木というやつだ。
焦って走っていた俺も少しだけ、桜景色に魅了され、足を緩めた。
そんな塗装された道に並ぶ桜の木たちのトンネルを小走りで通っていると……。
道の脇に、腰掛けている女性の後ろ姿が見えた。
もし焦った余裕のない心のままだったら、見逃していたと思う。
窶れた(やつれた)頬。
痩せていて、折れてしまいそうなほど、線が細い身体。
黒く艶がある長い髪と、それに隠された顔。
でも、一瞬見えた女性の目は、何かを必死に掴もうと足掻いているように見えた。
つまり……強く引き込まれる目だった。
だからなのか、いつの間にか足を止めていた。
いや、理由の多くを締めているのは……きっと単純に、見覚えがある制服を着ていたからだと思う。
そう、その女性は俺と同じ高校の制服を着ていた。
ピカピカで、おろしたての服を着心地悪そうにしている事から、同じ新入生だと思った。
『まさか、入学式がもう終わっている?』と考えもしたが流石に早すぎるから違う。
だとしたら、俺と同じで遅刻しているのか……。
でも、彼女が全く急いでいる様子はないし、悠長に腰掛けている。
俺は分からなくなった……。
・何をしている?
しいていうなら、女生徒は桜を見ていた。桜見? まぁ、一番ありえそうだな。
・何を考えている?
もう間に合わないから、諦めたのか……。
・諦めたのなら、なぜここにいる?
学校から近い距離にある公園に留まる理由……。行かないなら、帰ればいいのでは?
少し考えても、正解はわからない。やはり、一番ありえそうなのは、桜見かな……?
しかし……この時の俺はおかしかった。
遅刻した事による焦りからか、逆にテンションが上がっていた。
俺は普段、そんな行動力がある人間でも、知らない人に話しかける勇気がある人間でもない。
だけど、今はとても興味があったからか、勢いに身を任せ、気づけば彼女に話しかけていたんだ。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます