第3話 female

 ぎっちぎちの、ヒール。

 やめてほしい。

 足を縛らないでほしい。

 いつものわたしなら、そんなこと思ってた。

 今のわたしにとっては、どうでもいい。ちょっと派手に歩いて指先をいためれば、歩けなくなるな、とか。そんな程度。


 連絡係の、呼びにくる音。

 扉を開けられる前に、立ち上がった。ヒール。ちょっと、よろめく。


「彼がいたら」


 支えてくれるのに。

 彼はいない。

 初めて逢ったときのことを思い出して、ちょっと笑った。

 わたしの突っ掛けてたサンダルを見て、あろうことか、穴空いてますよって。穴。空いてますよ、って。


 そういうサンダルだし。

 笑ったら。

 寒くないのかって言われて。そこで初めて気付いたんだっけ。


 冬だったことに。

 そう。そのあと。雪が降ってきて。

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