「とにかくオレはお前に興味ねーから」
「新木祐菜さんですね!上のお名前は存じ上げていましたが、下のお名前も素晴らしいですね!」
「…あ、ありがと」
ぐいぐいと来るので顔を引き攣らせつつも返答する。…ん?上の名前を知っているだと?
「あの…上のお名前を存じ上げてるとおっしゃいましたが、どちらで聞いたのですか?」
オレの気持ちを代弁するように、舞子が尋ねる。千佳もオレも確かにと首を縦に振る。
「カフェで電話しているところに偶々出会しました。実は俺今年の4月からこっちで働いているんですが、なかなか仕事に馴染めなくて。それで休憩のためにあるカフェに寄ったところ偶々祐さんが居て。キビキビとパソコンで仕事したり電話したりする姿を見て一目惚れして彼女、いや彼のようになりたいと思ったんです。それからはなんでも真似しようと聞きこみしたり尾行したりしてー」
「ちょちょちょっと待て。尾行してたのか?オレを?お前が?」
あまりにも衝撃的すぎる事実に、オレは話を遮った。約2ヶ月前。妙に視線を感じるなと思いだした頃だ。
「はい! そうです!」
「てことは、吉谷さんが祐のストーカーってこと!? 流石に引く…」
「警察に相談してましたし、通報します?本日もお約束無しに突入されましたし。それともお清めの塩を撒きましょうか?」
「おう、両方やったれ」
「そんなご勘弁を〜 憧れの人の真似をしてただけじゃないですか〜泣」
「限度があるだろ、限度が」
「だって好きなんだもん。ゆうちんのことが」
「誰だ?ゆうちんって」
「祐さんのことだよ〜♪ゆうちんの方が距離感縮まると思って♡」
「オレとしては金輪際縮まりたくはないんだが。あとゆうちんってのは止めろ」
「ヤダ♡可愛いもん♡」
「止めろ」「ヤダ♡」「止めろ」「ヤダ♡」
「止めろ」「ヤダ♡」「止めろ」「ヤダ♡」「止めろ」「ヤダ♡」「止めろ」「ヤダ♡」「止めろ」「ヤダ♡」「止め…」
何やってんだオレ。
「とにかくオレはお前に興味ねーから。もう近寄んなよ?」
退店間際、オレは吉谷にそう言い残す。こうハッキリと言っておけばもう大丈夫だろう。
「ゆ、祐さん」
…一瞬こめかみか引き攣ったが、最後だと思うので応じてやる。とびきりの営業スマイルで。
「なんでしょうか、吉谷さん」
「SNSのア」
バタンッ
店の中では憐れなる男が何やら言っている。舞子、悪りぃが後は頼んだ。
一緒に店を出た千佳は腹を抱えて笑ってた。
さあ、午後からもお仕事頑張ろう。明日の休みの為に!
俺はこの時気がつかなかった。
奴の追求心に火をつけたことを。
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