「惹かれてはないぞ」

「うわー、大変だったねそれは」


翌日。オレはもう1人の友人、清原千佳(25)にも昨日の出来事を話し、そして千佳もまたアイツのことを最悪と評した。


「てかさ、相手は初めてじゃないって言ってるんでしょ?やっぱりどこかで会ってるんじゃない?」

「そうかなー」

言われて思い返してみるが、全く記憶にない。


「祐のストーカーさんだったりして♪」

注文した料理を運んできた舞子がそのまま千佳の隣に座る。

「美味しそう!頂きます!」

大好物なオムライスを目の前に、千佳は目を輝かせ食べ始める。その様子を舞子がニコニコしながら見守っている。同い年のはずなのに姉妹みたいだ。

「コラコラ、あまり食べ急いだらお口やお洋服が汚れちゃうわよ」

「ん、はーい」

…訂正しよう。親子みたいだ。


「にしてもストーカーか。あり得なくはないな」そう言いながらオレは今日もまたアイスコーヒーのブラックを飲む。ちなみにオレの方もオムライスだ。

「ふぉーひふぇは、ふぁふぉふふぉーふぁーふぉふぇんっへ、ふぉーふぁっふぁほ?(そういえば、あのストーカーの件て、どうなったの?)」口を拭かれながら千佳が口を挟む。吹いている途中で喋らないでと舞子が小言をいう。…うん。やっぱり親子だ。


「まだ視線は感じる。一応警察には言っているが-」

「こんにちは!!!」

突然ドアの開いた音がして振り向くと、昨日の奴がいた。


「ゲッ」

思わず本音が漏れる。

奴は舞子や千佳には脇目も振らず、どんどん近づいてくる。

「やはりここでしたか!行きつけみたいだったので来てみましたが、貴方にまたお会いできるとは!やはり俺たちは惹かれあう運命なのですね!」

「惹かれてはないぞ、どっちかつーとお前が引かれている運命なんだが。てかオレは女が好きで男には興味ねーんだよ!」

「またまたそんなこと言わずに!俺は全方位ストライクゾーンなのでご心配なく!」

「だからオレが嫌だって言ってんの!」


「コントかよ笑」

ズズズとストローでジャスミンティーを啜りながら高みの見物な千佳。

「側から見れば面白いけど、当事者となればあの人ウザいわよ」

昨日のことを思いだしたのか、奴を睨む舞子。

「まあ確かに。巻き込まれたらメンドそう」

「でしょ?私たちは避難しましょ」

「ええ、そうしましょ」

「いや、助けろや!!!」




結局は昨日はいなかった第三者である千佳がこの場を収めて、改めて話を聞くことになった。


「感情が高まりすぎておりました。申し訳ございません。」奴は謝罪して、昨日オレが立て替えていたコーヒーとケーキの代金を、オレに渡した。律儀なのはいいことだ。


どうやら食い逃げ(実際は全く手をつけていないのだが)のあげくにオレに代金を肩代わりさせたことに腹を立てていた様だった舞子はコロッと態度を変え、「律儀な方だったのね。よく見るといい男じゃない」とさえ言っている。


「で、お前どこの誰?」

この際だから身元をはっきりさせとこうとオレは奴に訊く。

「申し遅れました、私こういう者でして」

1人一枚ずつ渡された名刺を見る。


この名刺にはオレが働く会社の、道路挟んで目の前のオフィスビルに入る会社の内の1社で、取引先でもある企業名が書かれてある。

しかも同じ営業部長。

「マジかよ…」

取引先ということはニアミスしている可能性もなくはない。

「吉谷育真さんですね。私は○○社で経理部に所属しております清原千佳と申します。主に社内におりますので見掛けられることはあまりないかと思いますが、お見知り頂ければ幸いです。」

千佳はビジネスモードで奴、吉谷と名刺交換を行った。お前も律儀だな。


「私はここの喫茶店のオーナーの結城舞子と申します。名刺がございませんのでこちら代わりにお渡しいたします。」

舞子は改装記念品として以前配ったハンカチの残りの内の一枚と、名前と連絡先を書いたメモを吉谷に渡した。


「さ、次は祐の番よ?」

「名乗らないと失礼じゃなかったけ?」


舞子と千佳に言われてオレも渋々自己紹介。


「新木祐菜。***の営業部長だ。」

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