63. ドドンゴの役割

 午前中、空から戻ってきたジェシカが報告してきた。


「なんか、この村に向かってくる馬車がいます」

「珍しいな。馬車の種類は?」

「一頭引きの幌馬車です」

「じゃあ、問題ないな、ドドンゴさんかな」


 アンダーソン騎士の判断はたぶん正しい。


 しばらくしたら、やはりドドンゴがやってきた。

 いつもの一頭引きの幌馬車だ。

 報告も正しかったようだ。


 事前にわかるってのも便利だな。お茶の用意とかできるし。


「よう、ドドンゴ」

「こんにちは、またお世話になります。ブランダン様」


 こうして笑顔で挨拶した。


「それで今度はブラックベリージャムができたんだけど」

「ああ、ブラックベリーですか。あれは子供のおやつみたいなものですよね」

「そうだね」

「やっぱり潰れやすくて、売り物扱いにならないんですよね」

「そうなんだと思う」

「ところで翼人族のかたが見えたのですが」

「ああジェシカだよ」


 後ろで見ていたジェシカも頭を下げる。


「ほう、こんなところに翼人族ですか。領主様もこの場所を高く買ってますね」

「そうなんだ」

「そうだと思いますよ」


 へえ、そうなんだ。という感じしかしないけども。


「とりあえず、先に神様にご報告を」

「そうだね」


 こうしていつものように、みんなで連れ立ってほこらにお祈りする。

 今日はドロシーもいるので、緑と黄色の二色の妖精光が飛んでいる。


 祠から戻ってきて真剣な顔になって、本題に入った。


「ジャムですが、手紙を書いて一緒に領都まで運んでもらいましょう」

「てことはジェシカですか?」

「そう。もちろん」

「ドドンゴの取り分は?」

「私は手紙を書く係として、一割でどうです」

「いいですよ、そのつもりで待ってたので」

「助かります。手紙を書いて横流しするだけで、だいぶ儲かります」


 ジャムって高いもんな。領主様の買取価格だと。

 どうせならやっぱり新鮮なもののほうが美味しいに決まっている。

 常温で一週間とか、ちょっと変化しそうなところはやっぱりある。


「では決まりですね」


 ドドンゴはすぐに手紙を書いてくれた。


「お嬢さん、よろしくお願いします」

「はい、ドドンゴさん。ではアンダーソン隊長、手紙とジャムを持って行ってきます」

「いってらっしゃい、ジェシカ」

「いってきます、ブランも」

「おお、いってら」


 ジェシカとハイタッチを交わして、ジェシカは荷物を背負うと飛び立っていった。


「はあ、一仕事終わりだね」

「そうだね」


 俺とドドンゴは一息つく、タンポポコーヒーだ。


「しかし、山絹やまぎぬか」

「うん」

「これもどうせなら、領主に見てもらうんだったな」

「そんなにすごいの?」

「白い絹も高いけども、薄緑の山絹も高いんだ。そうか野生の山カイコと言ったっけ?」

「はい」

「その辺にいるものなのかい? 私は知らないのだけど」

「そうみたいですよ。実際、俺は見つけたし、そこにいます」

「確かにいるけども、でも今は卵だね」

「卵ですね」


 山カイコの卵はかなり小さい、BB弾みたいな感じのやつだ。


「話では聞いても、どれが本物のカイコか分からないよね」

「ああ、リズなんか他の芋虫取ってきてたりしたしね」

「素人には難しいな。他の村とかでも生産させたいところなんだけど」

「ああ、そうだ、いいよ。うちの卵持ってって、葉っぱあげれば食べるから、育てればいいんじゃね」

「そんな簡単に言いますが、ブランダン様は」

「大丈夫、大丈夫」


「では、山カイコの育て方の情報と卵をセットで金貨でこれくらいでどうです?」


 指で何本というやつだ。

 いやこれ、いくらなんだ。


「村、地区ごとに金貨五枚ぐらいでどうです」

「んーいいんじゃないかな」


 よくわかんね。でも俺はドドンゴの目利きを信頼しているので、大丈夫だろう。


「もう冬で落ち着いて取引できるかなと思ったんですが、色々次々でてきますな」

「そう言わず、相手してよ」

「あはは。相手はしますが、ほどほどでお願いします。気が持ちませんわ」


 静かにタンポポコーヒーをすする。


「私にも、翼があったらな、とは思いますね」

「だよね、俺も思う」

「「あはは」」


 二人して笑った。

 翼で高速移動する商人とか怖いものなしだよな。敵襲以外。

 でも翼人族は全員、領軍に所属しているので、民間で仕事をしている人はいないらしい。


「あとはアイテムボックスですか。ぜひ欲しい」

「こっちを見ないでくれよ」

「まあ、嫉妬です。持たざる者は苦労します。知恵と勇気とコネでなんとかしてますけどね、あはは」


 ドドンゴは俺がアイテムボックスを持っているのを一応、知っている。

 ただし俺のアイテムボックスは無限収納ではないので、大量の荷物を積んだりはできない。便利機能ではあるけど、馬車の代わりには結局ならないのだ。

 さすが器用貧乏、微妙に使いにくい。


「ここで生産した山絹はどうしましょうか? アンダーソン騎士は?」

「やっぱりジェシカに往復してもらうか」

「そうなりますかね」

「ちょっと大変かもしれないけど、明日でもいいか」

「はい」

「では、明日、朝の便で」


 俺が見てる前で、アンダーソン騎士とドドンゴがジェシカの明日の予定を決めていた。


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