62. ブラックベリー

 以前話していた通り、そろそろブラックベリーが山の中のあちこちでなる時期だ。

 ということで、みんなを連れてブラックベリー狩りをした。


「こっちにも、あっちにもあるにゃ」


 そうなんだよ。見渡す限り、あっちにもこっちにもなってる。しかし一か所ずつは、少量しかなってないので、歩き回らなければならない。

 そのため面倒くさいのが嫌いな俺は、なるべくサボりたいけど、金貨の山になると思うと、そうも言ってられない。


「さあ、頑張って集めよう」

「「「はーい」」」


 試食権が与えられている女の子たちは、今からジャムを楽しみにしている。

 春以来、いくつかジャムを製造してきたけど、みんなどのジャムも好きみたいだ。


 実をなるべく収穫時には潰さないように集めていく。

 ジャムにしちゃえば結局潰れるとはいっても、収穫後に沢で洗わないといけないので、今は潰れると困る。


 神経を使いつつ、籠に入れていく。


「あ、ウサギさんっ!!」

「本当、です」


 おっと今回はメアリアもちゃんと見れたようだ。

 以前、ウサギと会えるのを楽しみにしていたらしいので、よかったな。


 ウサギはそれほど警戒せずに、その辺をうろちょろした後、どこかへ消えていった。


「可愛かった、です。うふふ」


 うっとりしてるメアリアもウサギに負けず可愛いが、まあ野暮なことは言わないでおこう。


 どんどんブラックベリーを集めていく。


 お昼を挟んで、夕方近くまでかかってしまった。

 まだ山の中を探せば、だいぶ残っているけど、これは動物たちのご飯でもあるので、残しておこう。


「はい、ご苦労様」

「「「はい」」」


 みんなに見られながらベリーを洗って、鍋に放り込む。

 外で様子を見ていた、ジェシカもやってきた。


「みんな楽しそうだけど、何してるの?」

「ああ、ブラックベリージャムだよ」

「ジャム? ジャムってあの? 最高級品とか言われるあの?」

「あ、そんなふうに言われてるの?」

「はい。なんでも領主様が大好きで、お気に入りの人の食事会にしか出さないけど、出すと自慢をするという」

「そんなことになってるんだ」

「一部の人しか知らないよ。ボクはたまたま耳にして」

「たまたまか」

「へ、なんで、そんなものがここに」

「なんでって、領主様へ届けてるジャムのうちいくつかは、ここ産だからだよ」

「へええ。ええええええ」


 ジェシカの反応が思ったよりすごかった。

 そういえば一緒に住んでるけど、最近ジャムを出したことがないな。


「え、ジャムが下っ端のボクにも手に届くところに」

「まあ、後で完成したら味見は一緒にしようか。それまでは、ステイ、待てだよ」

「はい」


 ジェシカはしょんぼりして、ステイしている。

 でも羽がちょっと音はしないけどバタバタしてる。


 ジェシカでもこんな顔するんだな。

 ちょっと落ち着きのない小さい子みたいで、可愛い。


「はあ、こういっては悪いけど、こんな何も起きそうにない辺鄙へんぴな場所に派遣されて、ボクは左遷なのかなと思ってたけど、そういうわけか。それで重要拠点扱いなのね」

「そうなんだ」


 聞かされたこっちも、やや困惑気味だ。


 鍋でぐつぐつ煮た後、蜂蜜を投入した。


「はい、できあがり」


 みんな、固唾を飲んで見守っている。


「じゃあ、試食会しようか」

「「「はーい」」」


 ジャムの試食会をする。


「ジェシカもいるし、せっかくだから、薄焼きパンを焼こう」

「えーー」

「えにゃ」

「え、です」


「まあまあ、そのままでも美味しいけど、ほらパンにつけたほうが美味しいでしょ」

「う、うん」


 ドロシーが渋々了承して、みんなも続いた。


「はい、パンも焼けました」

「「「いただきます」」」


 ジャムを塗って薄焼きパンを食べる。

 うん、パンに最高に合う。さわやかな酸味、そしてかなり強い甘み。


「「「おいしぃいい」」」


 はい、最高。


 この量をもし砂糖で作ると、かなりの金額になってしまう。

 今回は自家製の蜂蜜だ。蜂蜜でも買っていたら、それなりのお値段がする。

 貴族様直行であの値段で売れるから、買ってもなんとか利益が出てる。

 金貨が飛ぶので、販売額に対して利益率じたいはそれほど高くなくても、ベースが金貨なので、利益も金貨なのだ。

 お貴族様の金銭感覚は怖いが、それに助かっている。

 今回は材料から自前なので、原材料が掛かっていない。いくらになるかは想像しにくい。


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