第12話 きずなとれんさ
――ある日の夜
ノートに書かれた【死ね】という文字。
文字はマジックで書かれており消えることはない。
学校の屋上の隅に立つ翠。
あのときアイツもこんな気持ちだったのかな。
そう思うとつらくなる。
自分が犯した罪は消えることはない。
もしも自分が死んだらいじめた人たちは後悔するのか。
いや後悔しないだろう。
自分も自分がいじめられこういう状態にならないとわからなかった。
ただ自分が面白かった。
ただ周りが怖かった。
誰かがいじめて誰もがいじめて。
それに参加しないと自分もいじめられる。
それが徐々に蓄積されていき。
最初はあった罪悪感も気づけば消えていた。
ひとときの笑いのためにやった行動が相手の心を一生えぐる。
そんな簡単なことに気づけなかった。
翠はただつらい。
「おいおいおい。飛び降りる気ないんなら金持ってこいや!」
少年がそういってペットボトルを翠に投げる。
ペットボトルはそのまま落ちていく。
小さな音が下で鳴った。
「……」
翠はその少年を睨む。
「なんだ?その目は!」
少年がずんずんと近づいていく。
「来ないで飛び降りるよ?」
翠の言葉に少年たちは笑う。
「いや、落としたいんだって」
翠は恐怖した。
ああ、自分はここで死ぬんだ。
「緑川知ってるか?人間って70%は水分でできているんだぜ?」
リーダー格の少年がそう言って楽しそうに笑う。
「え?」
「落ちたら水風船のようにバン!って弾けるんだぜ?
そんな面白い瞬間さ、動画で収めたら……
イイねが大量で、バズるんじゃね?」
バズるそんなのが自分がいじめる理由。
でも、自分もそんな話題作りのために太郎をいじめていた。
だから仕方がない。
そう思った。
飛び降りなきゃひどい目に会う。
飛び降りてもひどい目に会う。
死ぬかも知れない。
でも、もう終わるんだ。
そう思って飛び降りようと思った。
「なにしているの?」
太郎が声をかけた。
太郎の声は震えていた。
「トマトケチャップ作ってんだよ。
文句あっか?」
少年は太郎を見た。
太郎は緑を見た。
「緑川さん??」
太郎は驚いた。
同じ学校の制服を着ていた。
同じ学校であることを知った。
「無視してんじゃねぇぞ?俺は今ボケたんだ。
笑えよ!」
少年のリーダーが太郎に近づく。
太郎はいじめを目撃してしまったことに今更ながら気づく。
いじめの対象が自分になるかも知れない。
そう思うと怖くなった。
でも、いじめられるのはつらい。
飛び降りるのを黙ってみるのはもっとつらい。
「死んだらどうするの?」
「別に?」
太郎の言葉に少年のリーダーが笑う。
太郎はこの少年は何があっても反省はしないだろうそう思った。
「死んだら君は人殺しだよ?」
「そんなの揉み消せるだろ?ちょっと金を出してちょっと脅せば全て終わりだ」
少年がそういって笑うと周りの少年たちも笑う。
「いいよ。もう……
影無は帰りな。私は飛び降りるから」
翠はせめての罪滅ぼしに太郎だけは助けてもらおうと思った。
「いや、帰さないね」
リーダー格の少年が笑う。
「強姦とか見たくね?
俺、インタビュー受けたい。
そして言うんだ『おとなしそうに見えてあいつはそんなことをするやつだった』って」
すると周りの生徒たちも笑う。
「それも動画にしてあげればそれもバズるんじゃね」
「バーカ。そういうことをするとIPアドレスとかから身元がバレるぞ。
だからAVサイトに売るんだよ」
少年たちは楽しそうだ。
ここには悪意しかない。
「じゃ影無!緑川を強姦しろよ。
それとも緑川が影無をレイプするか?
どっちもいいぜ?両方ともトマトケチャップになれば面白いしな」
「……ひでぇな」
金髪の少年がポツリという。
「誰だ?」
リーダー格の少年がその金髪の少年を睨む。
「俺は
世界一のボクサーになる男だ」
少年は満足げに笑った。
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