第11話 にーとてぃーちゃー

久留里くるり十三は、幼い子供に絵本を読む。

といっても子供は既に眠っている。

眠っているとわかっていても途中まででやめると目を覚ます。

子供というのは不思議なものなのだ。


「おやすみ。自由」


その子供の名前は久留里自由

十三は研究者だった。

しかし自由が産まれると同時に研究者を辞めた。

教員免許は一応持っている。


母親は自由が3歳の頃……

出ていった。


自由は母親の存在を覚えていない。


十三は研究者だったがお金は稼いでいなかった。

それで付いたあだ名がニートティーチャー。


教師になってから気づけば。

12年過ぎていた。


もうベテランの教師だが。

一度付いたあだ名はなかなか消えない。

十三はずっとずっとニートティーチャーなのだ。


「さてと」


十三職員室で太郎の資料をまとめていた。


「……もう太郎くんには友達ができたようだね」


十三は太郎が自殺未遂をしたことを知っていた。

十三の受け持つクラスの生徒たちはそのことを知らない。


「太郎くん。ここからが頑張りどころだぞ」


それは小さな小さな独り言。

誰も知らない。誰も気づかれない小さな独り言。


そして十三はもうひとりの資料を見る。


【緑川 みどり


その子は太郎をいじめていた生徒の一人。

そして今はいじめられている。


いじめていたからといっていじめていい理由にはならない。

かなしいせかいがここにあった。


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