9 戦闘訓練

 リアル側の携帯端末で、沙理さりちゃんとビデオ通話をする。

 ちゃんと画面付きで通話するのは初めてだ。


 ちょっと緊張する。


「もしもし」

『もしもし、あ、竜也たつや君。リズじゃなかった、沙理だよ』

「もうどっちかわかんないよね」

『そうだよね』

「じゃあ、準備できたからすぐログインするけどいいよね?」

『うん。では向こうで、じゃあね』


 通話が切れる。


 沙理ちゃんのリアルの顔も、可愛い。

 VRゲーム内では、デフォルメされてアニメ調になっているけど、こっちはリアルでマジ可愛い。


 こんな彼女ができればいいな、と思っていたけど、課題のパートナーであって、彼女じゃないんだよね。

 本当に残念だよね。彼女はVRの女の子な僕を見ているのであって、リアルの僕を求めてるわけじゃないんだよね、たぶん。


 ちょっとおセンチになりそうだけど、うん。


 向こうは6倍速なので、1分遅刻すると6分遅刻になってしまう。

 だから先に連絡して時刻合わせをしたんだけど、すぐログインしないと。


 ベッドに横になってヘッドギアを装着する。


「リンクアップ。翡竜オンライン、起動」


 ゲーム世界に再びログインする。




 ゲーム内は朝日が昇ってくる途中だった。


 僕は、始まりの町アスタータウンの噴水広場にいた。

 なぜなら、休憩前にここで二人でログアウトしたからだった。


 ログアウト、ログインは同じ場所で起こると、覚えた。


 ほら、昔のゲームとかだと近くの復活地点で再開とかもあるから、そうなのかなって漠然と思ってたけど、元の位置にいる。


 ブーン。


 なんか光る剣とかを振ったときに出る音みたいな効果音とともに、横にキラキラしたエフェクトをつけて、ピンクツインテールのうさ耳が転送されてくる。

 もちろん、それはリズちゃんだ。


「おはよう、リズちゃん」

「おはよう、ワイちゃん」


 言うなりすぐに抱き着いてくる。

 う、柔らかくて気持ちよくて、そしていい匂いがする。


 リズちゃんの匂いだ。もう覚えてしまった。


「えへへ、ワイ成分の補給を完了したんだからねっ」

「あ、うん」


 僕は何と答えたらいいか、わかんなくて、相槌だけ打つ。


「ん? なになに。ワイちゃん『本当はキスがしたい』とか?」

「ええっ、そんなこと、恐れ多い、で、す」

「したくない、とは言わないんだね」

「うっ、うん」

「あっ、認めた。あっ」


 リズちゃんのほうが墓穴を掘って、めっちゃ恥ずかしそうに顔まで真っ赤にして、向こうを向いてしまった。

 なにこれ、可愛い。


 かと言って僕もそういうのをいじって遊ぶほどの趣味はない。


「ごほん、ごほごほ」

「それでなんだっけか、リズちゃん」

「レベル上げとかしたくないって言ってたけど、とりあえず戦闘もしてみようっか」

「うん。防具とポーションも買ったもんね」

「そうそう」


 噴水広場は町の中央にある。

 ここから門まではちょっとあるけど、歩かないといけない。


 途中で、モンスターのお肉をたっぷり挟んだパニーニみたいなものを露店で買った。


「おいしそう」

「朝ごはん、は食べなくてもいいし、食べてもいいけどどうするの?」

「僕は、食べるっ」

「ふふふ」


 リズちゃんが笑った。可愛い。


 学校でもこんな風に笑えばいいのに。


「おいしいっ」

「うん、おいしいわ」


 パニーニを食べながら進んでいく。


 食べてしまったのでお昼ご飯がなくなってしまった。

 違うお店で、モンスター肉の甘辛バーガーを買う。


「これもおいしそう」

「今食べたらだめよ」

「そうだけど。うぅ」

「ふふん。もうワイちゃんって意外と食いしん坊さんなんだから」

「僕は育ち盛りなんだい。今から背が伸びて、男の子らしくなるんだい」

「残念だわ。それは本当に残念。女の子になっちゃえばいいのに」

「うぅ」


 とにかくまた門に到着した。

 今日は昨日のプレイヤーの兵士さんはいないみたい。

 NPCの兵士さんの名前までは、ごめん、覚えていないので、ちょっとわからない。


 リズちゃんもティーシャツとミニスカートから、露店で買った魔女服みたいなものに着替えている。

 三角帽子はまだない。


 しかし手には剣を構えている。杖がないから仕方ないね。

 何も持たないよりは剣でもないよりマシらしい。


 昨日はちょうどいいレベル1用の杖が見つからなかった。




 草原だ。


 今日は敵と戦うために来た。

 お花摘みではない。


「前方に敵発見」

「見えてるわ」

「グリーンスライム1。レベル1」


 こういうのは雰囲気だ。僕は敵情報を口にして、それっぽく振る舞う。

 ロールとでも何とでも言ってくれ。


「ファイア!」

「ファ、ファイア!」


 僕たちは二人で、ファイアを撃ち出す。

 スライムは一撃で、HPを全損して、光となって消えていく。


「簡単だったね。チュートリアルと一緒だった」

「まあ、この辺もチュートリアルの延長なのよ」

「だよね」


 地面に六角形の『スライムの核』が落ちているので、拾う。

 その辺の違いは、正直、いまいちわかっていない。


「次は剣で」

「わかったわ」


「グリーンスライム1」


「えいっ」

「やあ」


 リズちゃんが先に二人で剣で斬り掛かる。

 敵のHPはまず半分ちょっと減って、僕の攻撃で0になった。


「だいたい、剣では2回攻撃で倒せるみたいだね」

「うん。これはスキルじゃないからね。『通常攻撃』っていうのだよ」

「なるほど。通常攻撃」

「通常攻撃はMPを使わないの」

「おーけい、おーけい。ワレ理解。通常攻撃、MP使わない」

「そそ」


 僕の平均くらいの頭でも理解したぞ。偉い。


 そそくさと『スライムの核』を拾う。


「倒せた! なんだか楽しい!」

「ふふっ、じゃあ次」


 こうして二人でスライムをシバいて歩き回った。


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