7 夜の露店街
平原から戻って町を進んで、露店街に到着した。
まだ夕日がぎりぎり残ってて、明るい。
そして露店街の広い道には、ガス灯みたいなものがついている。
「ガス灯なのかな? ほら明かりがつきだしたね」
「そうね。あれは魔道灯ね。魔道具なの。スライムの魔石は見たことあるんじゃない? それを燃料にしてるのよ」
「なるほど~。それにしてもリズちゃんはゲームのことも色々知ってるよね」
「私はね、ベータテスターだったの。それから正式オープンから2か月間プレイしたわ」
「そうなんだ。でも今、初心者装備だよね」
「うん。これは、学校の課題で、新しいアカウントにしたからだね」
「あ、そういえばそんなこと書いてあったっけ。既存キャラクターは使えませんって」
「そうそう」
僕たちは露店街の空いているスペースで、新規露店を開く。
今日の販売アイテムは、昼間と同じ『野草の花束』という家具アイテムだ。
数は全部で10個。
この手の家具アイテムは、重ね置きができないみたいで、アイテムボックスのスロットに同じ名前のものが10個並んでいてちょっと邪魔だ。
それを全部、露店の販売リストに登録していく。
お花は白主体のもの、赤とオレンジの明るいものなど、見た目がちょっとずつ違う。
一生懸命作業をしていたので気が付かなかったけど、露店を開始するときには、周りに人が集まってきていた。
「お嬢ちゃんたちの露店、また開くみたいだぞ」
「お、お花屋さんか。可愛い、可愛い」
「素晴らしいでござるな。可憐な二輪のお花とは、彼女たちのことでござる」
「俺、今度こそ、クジを引き当てるぞ」
なにやらプレイヤーたちがこそこそ会話している。
「お待たせしました。お花です。お花、いかがですか~」
パチパチパチ。
お店の開始を知らせると、なせか拍手喝采。大好評。なんでこうなるんだろう。
お兄さん、お姉さんたちが、ちょっと遠巻きにニッコニコして眺めてくる。
「お、今回は10個だぞ。ささ、10人だ。並ぼうか」
その中から、特にうれしそうな人たちが前に進み出てくる。
「うーん。よく見るとそれぞれ花の構成が違うみたいだね。これは悩んじゃうな」
先頭のお兄さんが、ゴザに並べてある花束を端から順にじっくり観察する。
手に顎を乗せて、考え込んでいた。
「よし、俺はこの可憐な白い花束、おひとつください」
「はい、ありがとうございます」
「くっ、それは拙者が狙っていたのにっ……」
忍者みたいな人も今回は当たったらしく、列の最後尾に並んでいた。
そうして1つずつ売れていく。
特にひとり1つまで、とか規制はしていないものの、なぜかそういうルールになっているみたい。
9人に花束が売れ、最後の1つになった。
「これが最後の花束。拙者に買われるために、残ってくれたのでござるな」
嬉しそうに花束をそっと受け取ると、代金を払ってくれた。
「ありがとうございました。これで閉店です」
「ありがとうございました」
僕に続いて、リズちゃんもお礼を言う。
パチパチパチとまた拍手されて、お開きになった。
「さて、お金もできたし、露店を見て回ろうか、ワイちゃん」
「うんっ」
「そろそろ、装備とかポーションとか集めないとよね」
「そうだね。夜のほうが人が多いんだね」
「昼間は外に狩りに出ていて、多くの人は、夕方から夜に露店を見て回るのよ」
「なるほどね」
とりあえず露店を端から端まで、ざっと見て歩く。
ポーション、料理、武器、防具、アクセサリー。
いろいろなものが売っている。
でも僕たちみたいに花束を売っている人は皆無だ。
「お花を売ってる人はいないね」
「あっうん。もっと高くて『効率』がいい商品を並べる人が多いからね。あとは狩りで出たドロップ品をついでに売る人かな」
「そうなんだ」
スズメウリというメロンの小さいのが沢山置いてあった。
小山になっている。数は100個くらいあると思う。
「このスズメウリは?」
「これはね、そのままでもおいしいんだけど、錬金するとポーションになるの」
「なるほど! 材料を売ってるんだね」
「そういうこと」
1個で100G。花束よりは安いけど沢山採れるなら、儲かるかもしれない。
「すみません。スズメウリ2個ください」
「はい。ありがとう、お嬢ちゃん。どうぞ」
「えへへ。はい、リズちゃん」
リズちゃんと1つずつにして食べる。
もきゅもきゅ。
うん。皮も薄くてキュウリみたいにそのままでも食べられる。
おいしいっ。
味はメロン。うんこれは、チュートリアルで食べた『おいしいポーション』と同じだ。
「えへへ。おいちいです」
「そうね。おいしい」
ポーションづくりも楽しいかもしれない。作り方が全然わかんないけど。
「防具とか武器とかどうする? 銅の剣は持ってるんだけど」
「そうね。まずは防具かな。武器はそれでとりあえずはいいわ」
「うん。今はティーシャツと短パン、えあえ、これスカート?」
「そうだね。どう見てもミニスカートだね」
「うへえ」
「今頃気が付いたの?」
「うん……」
そうなのだ。僕はミニスカートだった。
なんかスースするな、と思ってたんだけど、生地が薄くて緩い短パンだからだと思ってた。
手でスカートの裾を持ってちょっと広げてみる。
タックの少ないミニスカートだ。短パンはこんなに広がらないし、これは股のところが左右に分かれていないもんね。
「ちょっと、そんなにミニスカート広げて、はしたないわよ。パンツ見えそうだわ」
「あ、ご、ごめん。女の子だった」
「可愛い」
「ちょっ」
くそう。これだから。女の子の格好は油断ならない。
プレイヤーの装備情報を見ると『魅力値:35』それから『総戦闘力:135』とある。
「もう、このお店のズボンにするもん。すみませんちょっと試着させてください」
「はい、どうぞ」
茶色の普通のズボンを試着する。
アイテムを手にして、ボタン操作一発だ。
大きいかなと思ったけど、サイズもぴったりになった。
『魅力値:20』
『総戦闘力:120』
あ、ズボンにしたら魅力値が下がってしまった。そのまま魅力値が攻撃力に加算される仕様みたい。
え、ってことはこれ「可愛い格好」していないと強くないってこと?
えへえ。
いや、かっこいい格好でも上がるはずだけど、僕にそういう服が似合うわけなかった。
ということで魅力値を上げるには可愛い格好をしないといけない。これは必須事項だ。
「魅力値が下がって弱くなっちゃった」
「気が付いた? そうなの。格好とかで魅力値が変化するの。いっぱい可愛い格好しようね?」
「う、うん」
「可愛い、可愛い格好、たくさんだからねっ」
「う、うん……」
ズボンは泣く泣く返却した。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます