6 外の世界
町のプレイヤーたちにじろじろ見られつつ、移動する。
行先は、城門だった。
この町は王都とかではないけど、簡易的ながら城郭都市になっている。
大通りをたどって進んでいくと、外壁が見えてきた。
2メートルぐらいの比較的低い壁が続いていた。
そして正面には、道幅分の門が建っている。
プレイヤーたちよりも強そうな、銀色に輝く鎧を着ている兵士さんたちが、警備をしていた。
装備は槍、剣、盾と人によって違う。魔法兵なのだろう、ロッドのようなものを装備している人もいた。
「兵士さんすごい」
「うん、そうね」
「鎧もそれっぽくて、なんか楽しい」
「ステータスもすごいわよ。レベル50」
「おおぅ」
確かに兵士さんを『選択』するのを意識すると、いわゆるターゲットになって視界の上のほうにレベルとHPが数値付きで表示される。
自分たちと比べると、かなり高い。
名前だけでなく上の段に所属ギルドも表示される。
兵士さんは『アスター騎士団』というところで、青いワイバーンが紋章になっていた。
ほーん。なるほど、かっこいいじゃん。
あれ? みんな丸いマークが青なのに、ひとりだけ緑のマークの人がいた。
え、レベルは43。名前はウシオマル。どう見てもプレイヤーさんだった。
プレイヤーでもアスター騎士団に所属できて、警備の仕事とかできるんだ。
こういうのはNPCさんがするもんだと先入観で思ってたけど、プレイヤーにも騎士団に所属する権利がもらえるんだね。
これも自由度が高いっていうのかもしれない。
僕たちが緊張しつつ、門のところに到着したら、兵士さんたちはニッコニコの笑顔で、送り出してくれた。
「ちょっと、そこのリズエラさんとワイリスちゃん」
「ひゃいっ」
僕は呼び止められて、変な声が出てしまった。
「おっと、驚かせてすまない。その格好を見ると初心者のようだったので。夜には草原にオオカミやレイスなど危険なモンスターが出ることもあるから、夕方になったら戻ってくるといいですよ」
「あ、ありがとうございます」
「なに。おせっかいさ。いってらっしゃい」
「「いってきます」」
僕たちは頭を下げて、お礼を言う。
無事に門を通過する。
外の世界よ、こんにちは。ハローワールド。
「自由だ!」
「うん、自由だわ!」
別に何があるわけではない。そこには無限に続いているようにすら見える、広大な平原が広がっていた。
先のほうには川や森林があるのも見える。
丘もあって、その向こうまでは見えない。
道もある。馬車と護衛のプレイヤーっぽい人がこっちに向かっていた。
まさにファンタジー世界だ。
町もすばらしくファンタジーというかヨーロッパみたいだったけど、この草原は本物だ。
電柱とかもないし、車も走っていない。
地球の田舎と違うのは、プレイヤーたちが、ところどころで活動しているのも、見えるところだろう。
門の近くには敵が寄ってこないようで、半分安全地帯になっていた。
しかし、道を外れれば、そこには雑草たちが沢山生えている。
流石に薬草はないみたい。
でも普通の人には、ただの草花のフィールドオブジェクトでしかない花でも、集めて花束にすると立派なアイテムになるって、僕はもう知っているんだもん。
公園にもあった白いハルジオンみたいな花。
それから赤い花。オレンジ色の花。黄色い花。
青で先端が白い花。
ユリっぽい花。
いくつもの種類が飛び飛びで花を咲かせている。
「この世界って花だらけだけど、季節とかどうなってるんだろうね」
「それは私も知らないわね」
「6倍速だけど、1年に6年が進んじゃうのかな」
「あ、えと、すでにオープンから2か月が経ったけど、クリスマスとか新年とかやってはいないみたいから、現実時間準拠じゃないかな」
「なるほど、リズちゃん頭いい」
「えへへ」
「そういえば、リズちゃん本当はリズエラちゃんなんだ」
「そうね」
「リズエラちゃん」
「なあに?」
「なんでもない」
お花を集めて、花束にしていく。
リズちゃんも手伝ってくれた。
システム的な採取ポイントとかでもないので、補助システムとかもない。
「そういえば、ワイちゃん」
「なんでしょうリズエラさん」
「フレンド登録しましょ」
「あ、うん。まだだったね。もちろん」
ピコンって音が鳴り、ホログラムが表示される。
『プレイヤー[リズエラ]から、フレンド登録申請が届いています。[受理][拒否][保留]』
もちろん『受理』を選ぶ。
なるほど、こうやってリストに入れていくんだね。
「改めてリズちゃん。よろしく、お願いします」
「はい。ワイちゃん。よろしくね」
握手しようとしたら、抱きしめられてしまった。
柔らかくて、温かい。
むぎゅう。
「ちょっと、リズちゃん」
「えへへ、ワイ成分を補給しないと、私、死んじゃうの」
「えっそうなの?」
「うん。だから、毎日、補給させてね」
「う、うん」
ワイ成分。なんだろう。
僕から何か魔力みたいなものが、出ているんだろうか。よくわからん。
リズちゃんは幸せそうな顔をしているから、いいか。
普段学校では、ここまでデレっとした顔なんてしない。おすまし顔をしているから、印象が全然違うんだよね。
まあ、こういう彼女も、いいかなって僕は思うよ。
この広い草原に、お花は無限に生えている。
いっぱい取って花束にする作業は、もうちょっとだけ続いた。
夕方、日が暮れてきたので、二人の作業は終了になって、門から町に戻った。
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