5 美少女の花束
花束をアイテムボックスにしまって、道を歩く。
僕たちが行くのは、露店街だった。
商店エリアを抜けて、露店が集まっているというエリアに来ていた。
ホログラムメニューから『露店』を選ぶと、風呂敷みたいなものが1枚アイテムボックスに追加されていた。
露店ゴザという露店をするのに必須なアイテムなんだとか。
ゴザを敷き、二人でその上に乗り、花束を3つ、並べる。
「あっ値段。値段がわかんない。でも小学生の遊びみたいな花束だよ? 売れるの?」
「そうね。でも、周りを見てごらん」
周りを見る。げ。
なんか、こっちをちらちら確認して、露店が開くのを待ち構えていそうな人が、何人かいる。
「う。どうしよう」
「私たちは正規の露店なんだから、値段は普通でいいわ」
「普通ってどれくらいだろう」
「そうね。パンが1つ100Gぐらい」
「そういえばゴールドなんだね」
「定番よね定番」
「うん」
「花束は?」
「2,000G」
「2,000G? って2,000G??」
「そうよ」
「いいの?」
「大丈夫。ハイレベルの人は、もっと桁が違う稼ぎがあるから、これが最安値ぐらいだと思うわ」
「そうなんだ」
2,000Gと値段を付けた。これは露店ゴザセットについている機能で、値札もホログラムで勝手に表示される。
「持ち逃げとかできるの?」
「できるけど、そんなことしたら、袋叩きにあうわよ」
「こわっ、絶対にしないようにする」
「そうね。あはは」
「……」
聞かなかったことにしよう。
「では、はじめましょう」
「うん。お花、お花です。家具アイテムです。おひとつどうですか?」
すると視線が、その、なんか注目されている。
すかさず一人のおじさんがお店の前にくる。
「見せてもらってもいいかい?」
「はいっ」
僕は精いっぱいの笑顔を浮かべて、接客をする。
「うおおおお」
なぜか涙を流しながら、叫び出してしまった。
「ひ、ひとつ、ください」
「あはい、ありがとうございます」
金貨が2,000枚、なんてことはさすがになく、1,000G金貨2枚を手渡しされたので、両手でしっかり受け取った。
「ありがとうございました」
「い、いいんだ。こちらこそ、ありがとう」
やった。よくわからないけど、売れたぞ。
お客さんは涙を流しながら、花束を大事そうに抱えて、去っていった。
「お、俺にもください」
「あはい、ありがとうございます」
「私にもくださいませ」
「はい。ありがとうございます」
とまあ、すぐに全部売れてしまった。
お兄さんとお姉さんだった。
なぜか買ったお兄さんを周りの人がバシバシ背中を叩いて、冷やかしている。
なんだあれ。
「おい、この、果報者」
「抜け駆け、ずるいでこざるよ、ずるいでござる」
「まあまあ、また販売してくれるかもしれないですし」
「そうでござるな。次こそは、拙者がクジを当てるでござるよ」
こそこそお客さんが集まってなんかしてると思ってたら、そうか買う客をクジで決めてたんだ。
そんなにすごいアイテムなの? この花束? なんだか釈然としない。
「うふふ、売れてよかったわね」
「はいっ」
僕がリズちゃんの笑顔につられて笑うと「うおおおお」となぜか周りで野太い歓声が上がった。
何が何だか、さっぱりわからない。
「ちょっとお金もできたし、何か食べる?」
「そういえばお腹も空いてきたね」
「そうでしょ。このゲーム、お腹が空くと、動けなくなって、バッドステータスなのよ」
「ええ、それは困っちゃうね」
「そうだね」
商店街のほうへ移動する。
「あ、このお店『ピクシエルのサンドイッチ屋』さんがあるよ」
「あら。チュートリアルの妖精さんの?」
「そうだと思うんだ。サンドイッチおいしかったよ。また食べたいな」
「じゃあここにしましょ」
チェーン店なのだろうか。妖精さんそのものは不在のようだ。
サンドイッチセットを買って食べる。
「んんんっ、おいしいぃ」
「うん。おいしいわね」
現実世界のコンビニとかで売っている量産品よりもおいしい気がする。
現実の高級品となるとわからないけれど、味が濃いというか、はっきりとわかるような感じだった。
お肉も合成肉が普及して久しい。安い本物は出回っていない。
さてまだ時間が余っている。
このゲームは、6倍加速世界だ。
加速機能は、この翡竜オンラインで初めて有効化された機能で、いままでは規制されていた。
会社とかの業務VR空間アプリとかでも、最新のいくつかのソフトウェアの目玉機能として搭載されているらしい。
そして加速倍率の最大は現在はこのゲームと同じ6倍となっている。
「ごちそうさまでした」
「はい、ごちそうさまでした」
二人で手を合わせて、挨拶を済ませる。
ゲーム上のシステムなのか、料金は引き換え制になっているので、もう払ってある。
そうだよね。前金で商品が出てこなかったり、後払いで食い逃げとかする悪いプレイヤーもいるかもしれない。
そういうのもプレイとして楽しむユーザーもいるかもしれないけど、このゲームの趣向とはちょっと違うと思う。
このゲームはみんなで楽しくプレイしようだ。決闘システムとかはあるみたいだけど、他のプレイヤーを基本は傷つけることができないみたい。
「じゃあ、はい、手」
「手?」
「おててをつなぎましょ、ワイちゃん。ちいさいからどっか行っちゃうかもしれないよ」
「あ、う。うん」
ちょっと恥ずかしいけど、確かに迷子は困る。
お姉さんぶってるロリ巨乳のリズちゃんに手を取られて歩く。
し、視線が、いっぱい飛んでくる。
お兄さんも、おじさんも。それから女性、お姉さんたちも、微笑みで見つめてくる。
視線があったら、すぐそらすのが僕だ。
笑顔、笑顔。
じっと見つめ返さないようにしつつ、笑顔でいよう。それでたぶん大丈夫。
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