5話
「午後の授業だが、あ、カナエ先生、ちょっと」
教室の後ろに立っていたカナエ先生は、ヤベ先生に呼ばれて教壇の横へと歩いて行った。
「日本の伝統工業に関する授業なんですが、これはカナエ先生のほうが得意のようなので」
「え、伝統工業ですか?」
「そうです。よければ見せてやっていただけませんか」
「はあ……なにをですか?」
「テンシツキを」
「……はい?」
「ですから、テンシツキを見せて頂ければと」
ヤベ先生がにこやかに言うと、カナエ先生は口を開けたまま固まった。
「聞き間違いだと思うのですが、なにをですか?」
「テンシツキです。なにやら、すごいものをお持ちだとか」
「すごくありません!」
「謙遜せずに」
「してません!」
段々と先生二人の言い合いが激しくなっていき、教室がざわついてくる。
「なにを恥ずかしがっていらっしゃるんですか? 素晴らしいものじゃないですか」
「どういうことですか!?」
「カナエ先生の地方の工芸品でしょう?」
「ですから、テンシツキと言うのは!」
カナエ先生がヤベ先生の耳元で何かを言うと、ヤベ先生は「えー!」と大きな声を出す。ヤベ先生は土下座をする勢いで謝り出し、カナエ先生は顔を真っ赤にして後ろに戻った。
ヤベ先生は咳ばらいをすると、私を前に呼ぶ。
「……やってくれたな、アオイ」
「先生、私わかったんです」
「なにが」
「やっぱり人に聞くんじゃなくて、自分で調べないといけないなって」
ソウタに教えられた通り返すと、ヤベ先生は苦虫を嚙み潰したような顔を(苦虫ってどんな虫かは知らないけど)して、大きく溜息を吐く。
「まったく、お前は教師を屁とも思ってないな」
図書委員の考察【天使憑きの実習生】 甚平 @Zinbei_55
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