第2話 顛末
男は女を地下室に引きずって行った。地下には使用人の部屋などがあったが、物置にしている部屋もあった。人を殺すとなると、血しぶきが上がったりして、部屋が汚れてしまう。男は冷静に女の首を絞めた。女はもがいたがやがて静かになった。顔がむくんでうっ血し、もとの美貌は完全に失われていた。少し前まで笑って、喋って、呼吸していた女がもう今は動かなくなっている。プライドの高い女を踏みにじった快感。男はたまらなく興奮した。そして、すぐに新たな感情が沸き上がった。それは、独身の若い男にはごく自然なことだったのかもしれない。
遺体と死姦してみたくなった。そう感じるまでは一瞬だった。死体が硬くなる前に・・・男は急いだ。
その男は、屋敷の使用人を愛人にしていたが、普通の女で美人ではなかった。
美人を征服すると言う満足感に男は酔いしれた。体が完全に硬くなるまでは、その場に佇んで何度も楽しんだ。
しかし、10時間後くらいには体が硬くなってしまい、処分に困った。ひとまず、豪邸の庭に穴を掘って、ばらばらにした女の遺体を埋めた。目印に外で買って来たバラの苗を植えた。そうだ、こうやってバラを増やしていけばいいんだ。男はひらめいて嬉しくなった。
明日には使用人たちが戻って来る。やつらが戻って来たら暇を出そう。それで、この屋敷を死者との社交場にするんだ。男はホクホクした。美女を連れ去って、そのたびに庭に埋めよう。
死にたいなんていう気持ちはすっかりなくなっていた。
***
翌日、使用人たちが帰ってきたが、男は暇を出すとは言えなかった。もう少し計画を練ってから、次の誘拐を実行しようと考えていた。
庭師は庭の変な場所にバラの苗が植えてあるのを見て、主人に相談するまでもなく植え替えることにした。近づいてみると、異常な腐敗臭がする。主人がおかしなことをしたんだろうと思い、掘り起こしてみると、人の手足が出て来たので、男はびっくり仰天した。そして、主人に相談しないまま、走って警察を呼びに行った。
***
遺体がまだ新しいこと、使用人が全員暇を出されていたことなどから、家主が疑われすぐに逮捕された。
男は隠しきれないと悟って、すぐに女性の殺害を自供した。
「別れ話のもつれで・・・彼女とは恋人同士でした」
「はは。あの女は、売春婦だよ」
警察はすぐに男の嘘を見抜いた。きっと、行きずりで出会って殺害してしまったんだろう。
「え?」
「梅毒だったそうだ。・・・まあ、あんたは、今後、誰かにうつす心配はないでしょうから。自分が苦しむだけだけどね。あの女、梅毒なのに、吉原で働いてて、客から苦情が来て追い出されたそうだ。その後は、流しで食ってたんだって。美人でも病気持ちは客が取れないからね」
男は真っ青になった。
梅毒にはペニシリンが有効だが、日本がペニシリンの製造に成功したのは昭和19年だった。それまでは治療法がなかった。
***
それから5年後、男は刑務所内で自殺した。前はハンサムだったが、亡くなった頃には鼻が欠けてしまっていたそうだ。つまり、彼は感染していて、それを苦に亡くなったらしい。
冥婚 連喜 @toushikibu
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