二番弟子西礼 その4
次の日、明智のところに、新堂から西礼が挨拶に遣って来た。「明智様、永らくお世話になりました。明後日、
明智が語った。「西礼、あなたの徳は、聡明で優しいところです。それは、御仏の御姿に通じるところがあるのです。あなたは私の
次に、西礼は
「西礼、素空様の言葉は常に正しく、その言葉の中で、真の信仰に付いてこう語っておられます。『御仏に倣いて生きる』これに尽きるのです。さすれば、素空様と同じ人となりを持ち、同じ信仰の極みに達するのだと言うことです」宇鎮は晴れやかな顔を向けた。その瞳は
また、西礼はその日のうちに西院の素空を訪ねた。素空には口では言い尽くせないほどの恩義を感じていたので、そのことを感謝した。
素空はジッと聴いていたが、西礼が語り終えるとすぐに言葉を返した。
「西礼様は既に、我が師にすべてのことを学んでいると思いますので、ご心配には及ばないでしょう。伊勢滝野の薬師寺には、真の御姿ばかりが祀られ、我が師が申すに、御仏に願掛けをしているそうです。心が御仏に最も近付いた時、御仏の証を示して下さる筈なのです。住職として、西礼様の信仰が、檀家衆の信仰をお導き下さることをお祈りいたします。そして、その時、御仏の証を見ることができますようにお祈り申し上げます」
素空の言葉は、西礼の心に沁みた。
素空と別れると、次に
「善西、何を気にしているのですか?あなたは御仏によって赦され、今は生まれ変わったのではないのですか?悠才も一緒です。元気を出しなされ」西礼の言葉は温かく、2人の凍て付いた心を包むように沁みていた。
西礼は更に言葉を掛けた。「私は明後日天安寺を離れ、伊勢滝野の栄信と交代するのです。恐らく、これが最後となることでしょう。善西には小坊主の頃から仲良くしてもらいました。栄信と私達の3人は、苦難の末に天安寺に辿り着いた、何時までも変わることのない大切な友です」西礼は暫らく語り合い、西院を後にした。
善西は永く西院に留まり、15年後に西院の大師になり、広く仏の慈悲を説いた。
西礼は旅立ちの日、新堂から
栄雪が語り掛けた。「西礼様、天安寺で御仏の御慈悲に与ったことは、この後、信仰の糧となりましょう。お幸せにお過ごし下さい。また、栄信様とごゆるりとお話し下さい。私は、
西礼は東院の僧達と別れると、西院との分かれ道に遣って来た。そこには、素空と善西、悠才が待っていた。思わず胸の奥から込み上げる感情に足を止めた。善西の見送りほど嬉しいことはなかったからだ。
「素空様、お見送りありがとうございましす。私を正しい仏道に立ち帰らせて頂いたことは、終生忘れることはありません。いつも御仏に倣いて生きて行く所存です。どうか息災でありますようお祈りいたします」西礼の言葉に、素空は多くを語らなかった。天安寺にあっては、会うと、別れは日常のことだった。人にとっての真の別れとはどのようなことか、素空はぼんやり考えていた。
「悠才、あなたはまだ若く、過ちの傷はすぐに癒されることでしょう。東院に早く戻り、皆と一緒に修行ができるよう願っています」西礼がそう言うと、悠才は明るい顔で答えた。
「西礼様、明日より素空様の下で、御仏像の手直しを手伝うようになりました。私のことなら大丈夫です。どうぞ、ご安心下さい」悠才の声は弾んでいた。
西礼は最後に、善西に声を掛けた。「善西、あなたと栄信は、私にとって永遠の友です。小坊主の頃の苦しい体験を共にした大切な友です。共に幸せのうちに仏道をまっとうし、後の世に於いて
西礼は、3人に深く
門外の広場には、多くの出店が建てられ、今更ながら、素空の力量を知るのだった。今年の盆には、
さっきまでの郷愁にも似た思いがいっぺんで消え去った。「お大師様、明智様」西礼はそう叫んだ切り言葉を失い涙に暮れた。
「西礼よ、僧の別れに涙は無用だよ。別れは再会の喜びを生むものじゃ。この世での再会が叶わずとも、後の世には叶うであろうよ。また、わしが天安寺にある間に、再会の時は必ず訪れることを確かに申し伝えておくよ。良いな!再会の時には更なる高みにある姿を見せておくれ。我が二番弟子西礼よ!」玄空大師の言葉は、西礼を勇気付けたが、涙を止めることはできなかった。
明智が言った。「玄空様のお弟子たる西礼に、私が何を言うべくもないことですが、体にだけは十分気を付けて下さい。これは最後の懐地蔵です。もはやあなたに必要ではないでしょうが、餞別の品です。真に必要なお方に差し上げても良いでしょう。行きは、この馬をお使いなさい。さすれば、栄信様のお帰りも早くなることでしょう。再会を楽しみにしていますよ」明智の言葉に、優しさが溢れ、西礼は深く感じ入った。
行く手には、赤い
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