二番弟子西礼 その3
興仁大師が帰ってから、玄空大師は西礼を呼んだ。本堂で経を3本唱えた後、大事な話だから、と言いそのまま本堂で話を始めた。
「西礼や、急なことだが伊勢滝野の薬師寺で勤めてはもらえぬだろうか。今は栄信が住職を務めているのだが、栄信を天安寺に呼び戻さねばならなくなったのじゃよ。そなたには既に寺の諸事に付いては伝授しており、いずれはこのことを申し付けるつもりでいたのじゃよ。承知してくれるな?」
西礼はすぐさま答えた。「お大師様の意のままに、私を御仏の道具としてお使い下さい。素空様に命を救われてより、死するその時まで、御仏の御慈悲を取り次ぐ者として努めて参る所存でした」
玄空大師は、喜び少なく苦難の半生を生きた僧、西礼の
「西礼よ、そなたの師はどのようなお方であったかな?」玄空大師が問い掛けた。これまで、立ち入ったことは触れずに接して来たのだった。
「私に師などおりません。私は、
西礼は目を潤ませて語った。
「3人がそれぞれ片方を向いていたとは、どのようなことじゃな?」玄空大師の疑問に、西礼が答えて言った。
「私は、善西の気骨溢れる姿に憧れ、善西は栄信の深い教養に憧れていました。栄信は、私の穏健な姿を求めたのかも知れません。私がただ優柔不断なだけであったのに…。栄信が、灯明番の長になった時、善西の嫉妬が頂点に達しました。不遇な我らに比べ、栄信は天安寺東院のお勤めの中で、最も尊いお役目の
西礼が話し終えると、これまでの不遇な人生を哀れに思い玄空大師が言った。
「西礼よ、短い月日ではあったが、わしはそなたに寺の諸事に付いてすべてを伝授したのじゃよ。つまりは、共にこの新堂に暮らし、僧としてのすべてのことを伝授したと言っても過言ではないのじゃ。伊勢滝野の薬師寺においては、
西礼は、玄空大師の言葉に涙が止まらなかった。突然、西礼の心に師と言うお方が現れ、これまでの境遇が一変する思いだった。そして、素空が10年の間、玄空のこのような慈愛の中で育てられたことを知った。
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