千手観音の眷属 その4
岩倉屋惣左衛門は懐から観音菩薩を取りだして言った。
「淡戒様、この素空様の観音様を菩提寺にお連れして、先の如来様とお比べしたいのですが、ご一緒して下さいませんか?」淡戒はここまで来たからには、すべてを見届けようと思い承諾した。
菩提寺に着いたのは半時後(1時間後)のことだった。山門に
「これはこれは、岩倉屋様、今日は如何なされましたか?また、こちらのお坊様は御本山から来られたお方かな?」
「昨年、和尚様にお借りした如来様をお見せ願いたいと思って参りました。また、こちらは天安寺からおいでの淡戒様です。実は、手前がお支払いした代金のお礼にと下されたのが、この観音様です」岩倉屋は懐から、観音菩薩をだして見せた。
住職は驚いて、手に取り角度を変えて何度も見直した。岩倉屋に戻すと、薬師如来像を持って来て比べた。淡戒には、海童和尚が驚いた訳がすぐに分かった。
同じ人物の物としか見えないほど酷似していた。菩薩と如来の違いは歴然としていたが、表情や、彫り方に同一人物と思わせる特徴があった。
淡戒は、薬師如来像の彫り手が誰か訊いてみた。
住職は、1年ほど前に、岩倉屋惣左衛門に話したことと同じことを語った。
「素空様は、
住職と岩倉屋は驚いて顔を見合わせた。ここに至って2人もすべてを理解した。
淡戒が、住職から玄空の話を聴き、住職に素空のことを話した。
3人はそれから
「淡戒様、そろそろお帰りの刻限ではありませんか?今宵はお泊り頂いても結構ですが、如何でしょう?」
「夜になりましても帰らねばなりません。それでは、海童様ついつい長居をいたしましたが、またお会いする日を楽しみにいたしております」
淡戒と岩倉屋が陽善寺を後にして、京屋分家岩倉屋に戻って来た。
「淡戒様、これは娘のコウです。昨年秋に婿取りをして、今年は子が生まれます。頂いた観音様にお守り頂けることと存じます。まことにありがとうございました」
岩倉屋惣左衛門は礼を言うと、立ち去ろうとする淡戒を引き止め、
見事な細工が施された高価な火種と、
新堂の仁王門から響く声に、暫らく佇んで聴き入った。阿形尊の方から聞こえて来たが、素空は居なかった。時刻は
不思議なのは、阿形尊の方に近付くと、吽形尊の方から聞こえ、吽形尊の方に近付くと、阿形尊の方から聞こえて来ることだ。淡戒が引き込まれるように近付くと、阿形、吽形どちらを見ても素空の姿は見えなかった。そればかりか、阿形、吽形に挟まれると、素空の声は僅かに聞こえるだけだった。ふと気になって宇土屋の宿舎に立ち寄ることにした。宿舎に近付くと、素空の声がまた耳に入って来た。
淡戒が宿舎の戸を叩くと、
「お坊様、このような夜分に
甚太が怪訝な顔で尋ねると、淡戒が中の様子を気遣いながら小さな声で尋ねた。中では、職人達が
「私は、東院の僧で淡戒と申します。守護神の前を通りましたら、素空様のお声をお聴きしましたが、どこを捜してもお姿が見えませんでした。こちらで伺えばご存じかも知れないと思いまして参りました」
甚太は、微笑みながら答えた。「素空様は、仁王門の2階の
淡戒は、守護神に
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