その他
愛の暗黒時代
※過激な描写はありませんが、過激な内容かもしれません。人によっては気分を悪くされるかもしれません。ご注意ください。
* * *
ママを返して!
どうしてママにそんな酷いことをするの!?
ママは誰よりも僕を大切にしてくれたのに――
誰よりも多くのものを僕に与えてくれたのに――
どうしてそんなに酷く言われなきゃいけないの?
僕とママの愛し愛された記憶は全部、嘘だったって言うの?
全部、僕のせいなんだ。
僕があんなことを言わなければ――
その日は学校で作文の授業があったんだ。
お家で書いてきた作文を、みんなの前で一人ずつ発表していくものだった。
テーマは、最近あった楽しい出来事。
僕はママのことが大好きだったから、楽しかったことを思い出してみるとママのことばっかり思い浮かんだ。だからその時も、僕はママとの出来事を作文にして、みんなに発表したんだ。
でも、それが間違いだった。
僕が作文を読み終えて顔を上げると、みんな怖いものでも見たような顔で、僕を見つめていたんだ。
そして先生は、深刻な顔をして僕にこう言った。
「まあ……なんということでしょう。かわいそうなアステール。あとで先生の所にいらっしゃい。お話があります」
かわいそう? 僕が……?
大好きなママとの、楽しい出来事を話していたのに?
授業が終わったあと、僕は言われた通りに先生の所に行った。
「あの作文に書いたことは、本当ですか?」
最初に聞かれたのが、それだった。
僕はただ、ママとの入浴が毎日の楽しみだと書いただけで、どうしてそんなことを聞かれるのかが分からなかった。
それから先生は、僕とママのことを根掘り葉掘り聞いてきた。
家に帰ったらいつもママがキスしてくること。毎晩一緒の布団で寝ること。あんなことやこんなこと。
それらはどれも、僕にとって幸せなことだった。
なのに先生は――
「ああ、なんと穢らわしいことを……神よ。この哀れな子の魂を救いたまえ」
穢らわしい? なにが?
哀れな子? 誰のこと?
「アステール。あなたの母がしているそれは、虐待です」
「!?」
分からない。先生がなにを言っているのか、まったく……
「どうして? 僕はなにも酷いことをされていないよ!」
僕が言い返すと、先生は鬼気迫った恐ろしい顔をして言ったんだ。
「いいですか。落ち着いてよく聞きなさい。あなたの母は、母という立場を利用して、あなたの神聖な性の領域に踏み込んだのです。欲望に身を任せ、あなたの裸を見て、唇を奪い、みだりに肌に触れたのです。ああ、なんと淫乱極まりない。考えただけでもおぞましい……今からこのことを教会に報告します。あなたの母を異端審問にかけなければなりません」
「そんな……なにかの間違いだよ! ママはただ、僕を愛してくれているだけで……」
「虐待を受けた子供たちはみんな口を揃えてそう言います。しかしそれは親から洗脳されているからに過ぎません。偽りの優しさで子供を欺き、手懐け――その淫乱な行為があたかも愛情であるかのように錯覚させる。虐待を受けた子供たちは、自分が淫乱なことをされていることにすら気付けません。グルーミングという、恐ろしい洗脳です」
「分からないよ……」
だって、ママが僕にしてくれたことは、他の動物たちもやっていることじゃないか。
仲良し同士で
それらも全部、偽りの愛だって言うの?
動物はみんな、悪いことをしているの?
人間だからダメなの?
人間も動物だって、ママは言ってたのに。
愛しい人に特別優しくすることだって、生き物なら当たり前のことじゃないの? それは洗脳なの?
先生が今僕にしていることは、洗脳じゃないの?
「やめてよ……ママはなにも悪いことをしていないよ」
「これはあなたを守るためなのです」
僕はそんなこと望んでいないのに……
先生は結局、僕の願いを聞いてはくれなかった。
―――エッチはいけません!
それが大人たちの口癖だった。
僕の友達は男の子も女の子も、小さい時はよくエッチな言葉を言い合っては笑っていたけれど、いつの間にか誰も言わなくなった。
でも今考えると、なにがいけないのか分からない。
先生だって、愛し合う大人同士がキスをしたら子供が生まれてくるって言ってたのに。
それって悪いことなの? 穢らわしいことなの?
僕たちは、お父さんとお母さんが悪いことをして生まれてきたの?
ママはちょっとエッチなのかもしれない。
でも僕のことを見向きもしなかったパパなんかより、ずっと多くの大切なものを僕に与えてくれた。立派にお母さんをしていた。
それでもママは悪者だというの?
ママは僕を幸せにしてくれたけど、教会の大人たちは僕から幸せを奪っただけじゃないか。なんでそんな偉そうにしているの?
ママを返して!
一体誰のためにこんなことをするの?
ああ、今やっと分かった。
きっと偉い大人たちは、愛のない世界を創りたいんだ。
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