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パルテミラの三人婚

 男人禁制の帝都テシオンで知られるパルテミラ帝国は、婚姻事情もまた特殊であったようだ。

 テシオンの東にあるモーリヤの丘で、生誕の儀と呼ばれる儀式が毎年行われていた。その名が示す通り、これは新しい命を迎えるための儀式であった。親しい者が三人集まり、この地に眠る精霊に祈りを捧げると、三人のうちの一人が子を身籠ることができたという(古代語魔法『精霊の揺籠モリヤ・エレノーヴァ』によるもの)。そして、この儀式に参加した三人組はその時点で婚姻関係となった。これがパルテミラの三人婚である。

 制度上、男女が関係を持つことが不可能であったテシオンでは、この儀式なしには子孫を残すことができないため、三人婚が一般的となった。

 当初、テシオンの市民は女、女精、幼精のいずれかであったため、三人婚の組み合わせは女(女精も含む)三人、または一人二人の幼精を入れたものであった。二人婚や幼精三人の例もまったくなかったわけではないが、その場合は当然ながら子供はできなかった。

 時代が下り、テシオンの男人禁制が解かれると、男女幼精一人ずつの組み合わせが理想的とされるようになった。この組み合わせは、大人の男女で幼精を子供のように可愛がるという関係になる場合が多く、新しく生まれてくる子供にも十分愛情を注げるだろうと考えられた。三人婚において幼精は、パートナーが子供を大切にできるかを測る役割を担っていたと言えよう。

 またこの組み合わせは、一般的な男女二人組と比べれば遥かに浮気が少なく、そのことも利点として挙げられている。むろん、男女が他の幼精にうつつを抜かすことは多々あったようではある。ただし、その場合はヤキモチこそあれ、浮気とみなされることはほとんどなかった。


 男女幼精の組み合わせは、男女の融和が進む以前からテシオン以外の都市で稀に見られたが、最初の理想像となったのはベテルギウス、ジェロブ、エクサトラの三人だっただろう。

 ベテルギウスは特例でテシオン市民権を与えられた男で、彼の対ローマ戦争における功績は、テシオンの男人禁制解除のきっかけとなった。

 ジェロブは当時のパルテミラで最高の人気を誇った幼精であり、現在に至っても世界三大美少年の筆頭として名高い。

 エクサトラはセルキヤの戦いで、パルテミラの主力である霊羊騎兵の総指揮を執った女精である。

 彼らが結婚に至った経緯について分かっていることは多くないが、ベテルギウスとエクサトラは元々、ジェロブの所属するテシオン幼精歌劇団の熱烈なファンであった。特にベテルギウスがジェロブに夢中であったことは、彼の自著を通して広く知られている。また、セルキヤの戦いで重傷を負ったエクサトラを治療するために、ジェロブが新しい古代語魔法を開発したという逸話も残っている。


 三人婚の風習は、パルテミラ帝国が新しい王朝に取って代わられたあとも続いていたが、一一九七年にアルケサス朝が蒙句麗帝国に滅ぼされて以降、急激に衰退していったと見られる。




【脚注】

生誕せいたん

 モーリヤの丘で行われる、新しい命を迎えるための儀式。元々はモーリヤの丘で人身御供となった者の霊を慰めるために始まった。親しい者が三人集まって精霊に祈りを捧げることで、三人のうちのいずれかが幼精か女精の子を受胎する。この現象は『精霊の揺り籠』と呼ばれている。

精霊の揺籠モリヤ・エレノーヴァ

 モーリヤの丘で、親しい者が三人集まって精霊に祈りを捧げることで、三人のうちのいずれかが幼精か女精の子を受胎する。女か女精が一人いれば、他の二人は性別を問わない。生まれる子は三人分の遺伝子を持つことになるが、その姿はモーリヤの精霊に似るという。

 古代語魔法に分類されるが、詠唱により随意で使用できる他の魔法と異なり、精霊の気まぐれで発動される受け身の魔法である。裏を返せば、人間もモーリヤの丘で精霊と心を通わせれば、その恩恵に与ることができる。

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