第14話
「イーリス、話がある。執務室へ」
私は珍しくお父様に呼ばれた。やはり先日の事で何かあったのかしら。リューク様は舞踏会の翌日から毎日伯爵家へと足を運びお花やプレゼントを渡しにくる。
今まで一度だって無かったのに。
父の後を歩き、執務室へと入る。
「イーリス、リューク君とリシェ・ロマーノ公爵令嬢の事はどこまで知っている?」
「さぁ、私は殆ど知りません。リューク様や他の令息方がいつも聖女様の傍にいたのは知っておりますが」
「私はリューク君から直接話を聞いていたが、昨日、王家からも連絡が入りランドル侯爵と共に王宮へ向かった。そこで詳しくカルロス殿下から話を聞く事が出来た。
リューク君達は特にロマーノ公爵令嬢のお気に入りだったようだ。イーリスに贈り物をするな、会いに行くなと言っていたらしい。入学式の時もイーリスを迎えに行こうとしていたが、邪魔をして迎えに行かせなかったりしていたらしい」
初耳だわ。私に関心がないものだと思っていたのに。
「お父様それは本当ですか?」
「あぁ。本当だ。それと、この間の舞踏会での出来事の事だが、イーリスが帰った後、リューク君達はロマーノ公爵令嬢を連れて王太子殿下に面会しに行ったようだ。
そしてその場で殿下から聞かれ、リューク君達は聖女より婚約者の方が大事だと話をしたらしい。それを聞いたロマーノ公爵令嬢は暴れ、貴賓牢に入ったらしい」
貴賓牢!?私は流石に驚きを隠せないでいた。
「お、お父様。貴賓牢ですか」
「あぁ、貴賓牢だ。王太子殿下に暴言を吐きながら茶器を投げ付けて暴れ、騎士に捕まったそうだが、その後も暴れて大変だったそうだぞ」
「・・・想像がつきませんわ」
「だろうな。私も最初は耳を疑った。どうやら以前から公爵は爵位を盾にリューク君や他の令息達に婚約者よりロマーノ公爵令嬢を優先し、傍にいるように脅し命令していたそうだ」
・・・そうだったのね。
爵位のある人に逆らえば家ごと消される可能性もあるのだから仕方がない。ほんの少しだけリューク様への気持ちが変わったかもしれない。でも言ってくれていればもっと違ったのかもしれない。
「リシェ様はそれからどうされたのですか?」
「あぁ、どうやら公爵と神官長が迎えに行った。今後は神殿預かりになるかどこかへ嫁がせるか話し合いをしているそうだ」
「そうなのですね」
「どうやら神官長はリシェ嬢の普段からの素行を気にされていてな。聖女として神殿で預かるよりどこかに嫁いだ方がいいのではないかと意見したようだ。
それは公爵も同じ考えだそうだ。ロマーノ公爵令嬢が気に入っているリューク君を無理やり婿に迎えたいらしい。公爵家から直々に王家へ願ったそうだ。側妃にさせない代わりに5人のうちの誰かと婚姻させろと」
「それは酷いですわね」
「王家から侯爵家へと打診があった。だが、侯爵もリューク君もロマーノ公爵と縁づきたくないそうなのだ」
「確かに爵位を盾に他家に命令してくるような方は御免被りたいですわね」
「そこで、だ。イーリスとリューク君の式は2ヶ月を切った。いくら拒否したとはいえ公爵家は侯爵家や我が家に圧力を掛けて婚約者の変更をさせようとするかもしれん。
リューク君とこのまま結婚しても良いのなら先に婚姻届けを出そうと思っている。それでいいか?」
「遅かれ早かれ結婚するのですから私は構いませんわ」
「分かった。すぐに手続きに入る」
そう言い終わると執事にすぐ指示を出した。
「お父様、他の4人の令息方はどうなのでしょうか?」
「あぁ、聞いただけだからこの先どうなるか分からないが、今回聖女が殿下への暴力事件を起こし貴賓牢に入った事で聖女の行動が貴族達に露呈したと言っていいだろう。他の3人は婚約者との婚姻を急ぐ事になると思う」
「1人、婚約破棄をされた方がいらっしゃいましたわ。あの方はどうするのでしょうか」
「彼は廃嫡はされなかったが、領地でひっそりと暮らしているらしい。今回の王家からの通達で彼が命令されていただけだと分かったはずだ。彼は呼び戻され別の家へとすぐに婿入りの手続きをするだろう」
公爵家はこれから貴族社会から爪弾きにされるでしょうね。
「それは良かったですわ」
「だが、婚姻の手続きが完了するまでの間、イーリスは家から出てはいけない。中庭にもだ。分かったな」
珍しく父が険しい顔をしている。それほど注意しなくてはいけないのかしら。
「お父様、そこまでしなくても良いのではないですか?」
「公爵も聖女も婚約者がいる相手を望んでいるのだ。ましてや結婚式まで2ヶ月切っている者に。力ずくで邪魔者を排除しようとする可能性も否定出来ない。
侯爵家も相当警戒している。リューク君は現在王宮の寮暮らしだったが、殿下の計らいで侯爵家へと帰り、仕事も休んでいるそうだ」
「そうなのですね。わかりましたわ」
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