第13話 リュークside4
彼女は俺たちの本心を聞いて顔を真っ赤にし、ワナワナと震えている。あぁ、いつもの癇癪が始まるな。
俺たちはさっと殿下を庇うように殿下の前に立つ。
「黙って、黙って聞いてれば!!!あんな女達の何処がいいのよ!!私は聖女よ!私の方が可愛いし、爵位もある!どうして言うことを聞かないのっ!」
リシェは怒りのあまり出されたカップを持ち殿下へとめがけて投げつける。だが、カップは俺にぶつかり床に落ちた。ディルクも紅茶がかかったようだ。
殿下にかからずにすんだのは幸いだ。
扉の前に居た護衛騎士が聖女をすぐに取り押さえる。
だがまだまだ彼女の癇癪は治まる事を知らず、取り押さえられてもなお激しく抵抗している。
その行動は常軌を逸しているようにさえ見える。
「リシェよ、落ち着け。まぁ、この状態では無理だろう。連れていけ」
取り押さえた騎士に指示をする。リシェは叫びながら抵抗しているので別の騎士に猿轡を嚙まされ担ぎ出されていってしまった。
「リューク、ディルク。リシェはいつもああなのか?」
俺たちはさっと元の位置に戻り答える。執事はカップを拾い、タオルを渡してくれる。
「そうです。昔から癇癪が酷く、一度怒ると手が付けられません。他の令嬢達から距離を取らせるために公爵が私達を付けられたのだと解釈しております」
「それはどうだろうな。お前たち5人の中から婚約者として選ぶ予定だったのだろう」
俺たちの血の気は一気に引いた。薄々気づいていたとはいえ、殿下の言っている事が理解出来るからだ。公爵ならやりかねない。
「まぁ、すぐに結婚してしまえばいいんじゃないか?お前たちのおかげで俺もシェルトもリシェを側妃として迎えなくて済みそうだからな。
あぁ、お前たちは首の皮一枚で繋がっているのだったな。無理して今日の舞踏会に婚約者を呼んだのだったな。廃嫡も免れない、か。よし、一筆書いてやろう。受け取れ」
カルロス殿下はそう言うと、執事が差し出した紙にサラサラと書き印を押して俺たちに紙を渡した。
これぞ天の助けだ。
俺たちは殿下に感謝を述べて礼をし、部屋を後にした。
「リューク、お前今から伯爵の所へ行くんだよな?」
「ああ、もちろんさ。ディルクもだろう?」
「ああ、お互い今日の事で婚約者から侮蔑の目で見られる上、廃嫡が決定すると言っても過言ではないからな。健闘を祈る」
俺たちはまだ続いている舞踏会の会場を後にした。
馬車が伯爵家へ到着するまでの俺は気が気では無かった。イーリス嬢の顔が思い出される。もうあんな顔はさせない。
伯爵家に到着するとすぐに執事が出てきた。
「リューク様、どうされましたか?本日のお伺いは聞いておりませんが」
「伯爵はおられるだろうか?」
「・・・どうぞ、こちらに」
執事は何も言わずに通してくれた。もしかしたらこれが最後だと思って通したのかもしれない。執事の声に伯爵は入れと短く返事をした。俺はすぐに中に入る。
「リューク君、どういうことかね?イーリスは1人で帰ってきたのだ。話を聞いたが、当分イーリスはお茶会や舞踏会に参加は出来ないだろう。そんなに我が家と婚約破棄がしたかったのか?」
「本当に申し訳ありません。突然呼ばれた理由が王家に聖女を嫁がせないようにするため利用されたとはいえ、イーリス嬢には本当に辛い思いをさせてしまいました」
俺は持っていた手紙を伯爵へと出す。殿下からの口添え程度のものだろうが、無いよりはマシだ。
「・・・ふむ。憤懣やる方ないがこれでは仕方がない。納得はしないが理解はした」
「俺はイーリス嬢といますぐにでも結婚したいと思っています」
「イーリスはそうは思っていないだろうな」
伯爵はそう冷たく言葉を放つ。そうだろう。痛いほどに理解している。そして俺は伯爵へ改めて謝罪をした後、イーリス嬢への謝罪をしに部屋へと向かったが、生憎と彼女は疲れて既に休んでいるらしかった。
明日、出直すことを告げて侯爵家へと帰った。
そして今日の出来事を全て父に報告すると烈火のごとく叱られた。当たり前だな。俺は黙って受け入れるしかなかった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます