第12話 リュークside3

 迎えた当日、俺は朝から落ち着きない状態で侯爵家からイーリスを迎えに行った。


着飾ったイーリスはなんて可愛いのだろう。庇護欲をそそられる。あまり見つめると変に思われてしまうだろう。俺はあまり見ないように馬車では視線を外に向けていた。



 会場へ入り陛下達へ挨拶を行う。イーリスをエスコートするのに緊張した。


今までに感じたことのない心地よい緊張感。


初めてイーリスとのダンス。俺の心は未だかつてないほど浮き足立っている。


 これからイーリスと仲良くやっていこうとした矢先、リシェは現れた。そして聖女という称号で無理やり俺たちのファーストダンスを奪った。


「ふふっ、リューク。今日の私は誰よりも素敵でしょう?ほらっ、あそこにディルクも居るわ。


今日は珍しくディルクも婚約者と来たのですって。私だけがエスコート無しだなんてありえないわよね。ライもソルもギャルも今日は居ないから3人で楽しみましょう?」


「リシェは聖女だろう?周りを見て見ろよ。俺たちは顰蹙ものだぞ。ダンスが終わったら陛下や貴族へ挨拶しないといけないだろう」


流石の俺だって周りからの痛い視線には気づく。あえてリシェはやっているのだろう。


男を侍らす聖女、か。最悪だな。


 聖女の称号と公爵位だから黙って従っているが、これが庶民や男爵位なら俺はリシェを剣で切っていたかもな。


俺はリシェが離れた隙にイーリスを迎えに行った。


 大事な婚約者をこれ以上放置できない。だがイーリスはどこかへ移動したようで色々と捜し歩いた。



 ようやくバルコニーで見つけたと思ったのにあの女がまた俺を邪魔しに来た。ディルクも付き合い切れないと言いたげだ。そして俺はフラれてしまう。婚約者とダンスも踊れず先に帰らせるなんて。ディルクも横で憔悴しきっている。それはそうだろう。


反対にリシェは嬉しそうだ。悪魔のような女だ。


 俺たちはリシェを王太子殿下の所まで連れていく。その間も突き刺さるような貴族たちの視線。心が折れそうだ。



「お呼びでしょうか?カルロス殿下」


リシェは呼ばれた事を不服としているかのような態度をしている。リシェは促されるままカルロス殿下の向かい側のソファに座り、俺たちは後ろに控えるように立っている。


 カルロス殿下の執事がそっとリシェにお茶を出すが、リシェは口を付ける様子はない。カルロス殿下は俺たちに視線を一瞬向けたかと思うと微笑みながら口を開いた。


「リシェよ、婚約者から男を取り上げて楽しいか?男を侍らす聖女とはなんと罪深い。今日の出来事をきっかけにお前を側妃にするには貴族たちから反発を招くだろうな」


「あら、彼等は私と過ごす事を楽しみにしておりますのよ?私は愛されておりますの。殿下の側妃にならずとも皆、私を奪い合っていますのよ?


昔から彼等は私だけを見てくれていますから。貴族達の反発など無視すれば良いのです」


は?俺は耳を疑った。


ディルクに視線だけを向けると彼も俺を見ている。


今の俺たちは違うと即反論したいが口を噤むことしか出来ない。爵位が恨めしい。


「ほう」


カルロス殿下は面白そうに聞いている。俺は早く帰りたい。


「リューク君、君に聞きたい。リシェはそう言っているが、どうなのかね?正直に言いたまえ」


不敬にならないだろうか。不安になるが、これ以上リシェとも関わりたくない。俺は一歩前に出て騎士が報告するように礼を取り話し始める。


「私リューク・ランドルは幼少の頃よりロマーノ公爵からリシェ様が苛めに合っているので庇うようにと仰せつかっておりました。


それは学院でも同じ。聖女が危害を加えられるといけないから傍で見守れと。聖女様の側にいる理由はそれだけであります」


「ほう、君の婚約者の話が私にまで聞こえてくるのだが、それはリシェが好きだからだろう?」


「・・・不敬を承知で申し上げます。好きではありません。婚約者に物を送るな、声を掛けるなと聖女様が仰った事を忠実に守っただけであります」


言ってしまった。もう後には引き返せない。俺は内心ヒヤヒヤしている。


「ふむ、ディルク。君はどうだ?」


そう言うとディルクも同じように礼を取り口を開く。


「私ディルク・エイントホーフェンはリューク・ランドルと同じく公爵より仰せつかり聖女様をお守りするためだけに傍におりました」


「リシェと婚約者、どちらが大事か?」


「・・・不敬を承知で申し上げます。婚約者の方が大事です」


「だ、そうだぞ?リシェ」


カルロス殿下は面白い事が聞けたとばかりにニヤニヤしている。

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