第11話 リュークside2

「リューク、お前も婚約者と昼食くらい食べてやれよ」


 クラスの連中からはそう言われるようになった。ずっと連絡も取っていなかったせいか顔もあやふやで分からない。


これから婚約者とどう連絡を取ろうかと悩んでいた時、リシェは聖女として選ばれたらしい。


この頃から俺たちは度々公爵から呼び出され、リシェのそばにいろと注意される事もあった。


そして公爵からはリシェが『クラスでいじわるをされている、1人で廊下も歩けない』と言っている。俺たち5人が学院での生活を守れと言われたのだ。


 公爵の命令に爵位の低い俺たちは断る事は出来ないし、リシェは聖女だ。従うしかないだろう。そうして俺たちはずっとリシェの傍を離れないように過ごしていたのだ。



 そうして迎えた卒業パーティ。


 今まで一度も婚約者と過ごした事がなかった。流石に結婚が目前となり、背けていた現実を知る事となった。


父上も母上もドレス1つ送らない俺を烈火のごとく叱った。当たり前だろう、後悔しかない。


公爵に黙ってドレスを送るとかやりようはあったはずなのに。


 リシェをエスコートするのが当たり前だ、命令だと公爵から言われ、卒業パーティはリシェをエスコ―トして入場した。そして今更ながら気づいたんだ。


 俺は公爵に、リシェに良いように利用され、逃げられないように嵌められていたんじゃないかと。俺たちが入場した後、開始されたパーティ。賑やかに始まった片隅でひっそりと退場していく令嬢達。


俺の隣にいるやつも気づいた様子。


 退場していった彼女は俺たちの婚約者ではないのだろうか。会場を見渡すと令嬢達はみな婚約者をパートナーにして立っている。婚約者をエスコートしなかったのは俺たちだけだったのか。


まさか、な。いや、でも。


俺は内心焦りはじめていた。


 その焦りが伝わったのかどうやら他のやつらも表情が抜け落ちている。俺はあまりの事でパーティーをどう過ごしていたか記憶にない。


リシェを除いた5人の男達は暗い表情のまま卒業パーティを終える事となった。


辺境伯令嬢と婚約していた奴はすぐに辺境伯領へと飛んで行ったが、婚約破棄をされてしまった。


 残る4人の俺たちは家の事業の為もあり婚約破棄にはならなかった。首の皮一枚で繋がっていると言っても過言ではない。俺はなんて事をしたんだと今更ながら後悔の念に襲われている。




卒業した数日後には騎士団の仕事が始まった。


新人ということもあり、忙しく家に帰る時間も遅くなるので騎士団寮に住む事になった。そして寮で先輩達の話を聞いていくうちに自分が婚約者にしてきた事がどれだけ酷いのか更に更に思い知らされる事となった。



「お前、最低だな。捨てられたな。事業提携が進んでいけば用無しだ。離婚後、お前は廃嫡だろう」


先輩騎士達から厳しい言葉ばかり聞かされる。


どれも本当の事なので苦しくなるばかりだ。


父上に謝り倒したのは言うまでもない。母上には泣かれた。なんとか婚約破棄にならず結婚式が半年延期となった。あとは婚約者のイーリス嬢と会うだけだ。


でも、どんな顔をして行けばいいんだ?


もう何年も顔を見ていない。合わせる顔がない。


 騎士の仕事をしながら悩み続けていたそんなある日、第二王子殿下から直接俺は呼ばれた。


「リューク・ランドル。君は半年後に結婚するそうだね。それなのにも関わらず卒業パーティでは聖女をエスコートしたと聞いた。


君の婚約者は何を思っているんだろうか?何年も会っていないんだろう?私は是非とも君の婚約者に会ってみたいね。


今度舞踏会が行われるのは知っているよね。急だが連れて来ておくれ。もちろん私が呼びつけた事は内緒にしておくように」


「・・・承知致しました」


 やはり俺の行動は殿下には筒抜けだったようだ。腹黒そうな笑みを浮かべている。良からぬ事が起きなければいいのだが。


 そして俺は仕事を切り上げ、急いで伯爵家へと向かった。だが、彼女は夫人の勉強として侯爵家に住み始めていたらしい。


俺は何も聞かされていない。


そうか、そうだよな。俺の今までの行動のせいか。


 俺は伯爵に平身低頭で謝った。今までの経緯を聞かれ、全て話をした。娘を蔑ろにしてきたのだ許される事ではない。伯爵はとても怒っていたが、聖女の癇癪や公爵が俺達をはじめとして他の貴族達に爵位と財力で圧力を掛けていたと知っており、理解は示してくれた。


俺は本当に申し訳なさで一杯だった。


そして伯爵に謝罪したその足で領地へと向かった。




 突然帰ってきた俺に邸は騒然としていた。先触れも出していなかったからな。俺は逸る気持ちを抑えつつイーリスの部屋へと足を運んだ。


そして何年かぶりに見た自分の婚約者。


・・・可愛い。


俺はイーリスを見るなり言葉を失った。こんなに可愛い婚約者を蔑ろにしていた自分を殴りたい。そして母上に叱られた。当たり前だな。俺は寮に帰り、イーリスの可愛さを改めて思い出していた。



はぁ、俺は今まで何をしていたんだろう。

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