第76話 勘違い
フェンリルを池に戻し、ゆっくりと朝食をとる。
その後、デイリー用の運動をしようと外に出ると、カッパーが水柱をド派手に上げながら池から飛び出て来た。
ド派手な登場。
「とう!カッパー推参!」
そして彼女は変化掛け声とともに、俺の目の前に着地する。
言うまでもないが――
奴の上げた水柱のせいで俺はびしょ濡れだ。
もろにひっかぶったからな。
因みに俺の横にいたポッポゥは全く濡れていない。
何らかの手段で防いだんだろうが、できれば俺の分も一緒に防いでほしかった物である。
どうやら彼女は、危険のある時しか守ってくれない様だな……
やはり気づかいと言う面では、ジャガリックには及ばない。
「おいカッパー。もっと大人しく出てこれねーのか」
「できません!なぜなら私はお怒りだからです!」
苦情を言ったら、何故か逆にカッパーに強く睨まれてしまう。
何を怒ってるんだコイツは?
「フォカパッチョはフェンリルに冷たすぎます!せっかく私が有効度上げを腐心してあげていると言うのにまったく……」
「ぷぎゃ」
カッパーが両手で抱えたフェンリルを俺の顔の前に突き出してくる。
どうやら彼女は俺の塩対応にご立腹の様だ。
が――
「安全の確立してない魔物と仲良くする気はない。噛まれたら痛いだろうが」
俺の行動は当然の自衛行動だ。
文句を言われる筋合いはない。
「はぁ……本当にヘタレですねぇ。フォカパッチョは」
「安全志向なだけだ」
しなくていいリスクを背負う趣味はない。
ないない尽くしの状態ならともかく、今は生活が安定しているのだから猶更である。
「分かりました!そこまで言うならこのカッパーが一肌脱ぎましょう!」
自分の押し付けに対して一肌脱ぐとか、どれだけ上から目線なんだよ。
と言うのは置いておく。
コイツに言っても絶対無駄だろうし。
「一肌脱ぐ?何をするつもりだ」
「私の水の力で、フェンリルの歯をマイルドにコーティングしてあげましょう。それなら万一噛まれても怪我はしないはずです」
なるほど。
カッパーの能力でマウスガード的な物を付けて、凶器となる歯を封印する訳か。
それなら確かに恐れる必要はなくなるな。
「では――」
「ぷぎゃ?」
カッパーがフェンリルを片手持ちする。
そして空いた方の手で、フェンリルの口を押えた。
「アクアプロテクション!はい!これでオッケーです。フェンリル、口を開いて見せてください」
「ぷぎゃぁ」
フェンリルがカッパーの言うままに、素直に口を大きく開ける。
どうやらもうある程度飼い慣らせてはいる様だ。
「歯に何か透明っぽいものがついてるな」
「カッパー印のアクアガードです。これでビビりのフォカパッチョも一安心という者でしょう」
「まあそうだな。ただ……ちょっと待っててくれ」
俺は一旦中庭から屋敷に戻り、お手伝いさん――持ち回りで村の女性に屋敷の雑事を頼んでいる――に朝食に出た肉の骨を貰ってくる。
「ん?骨なんか持って来てどうしたんですか?」
「ちょっとしたテストだ」
そしてそれをフェンリルの口の前に差し出した。
そう、安全テストである。
「ぷぎゃぎゃ」
その骨にフェンリルが喜色の声を上げてかぶりついた。
そして――
「……」
――バリバリとかみ砕いて食い切ってしまう
「全然だめじゃねーか。まさかお前はこの骨より俺の体の方が硬いと思ってんのか?」
カッパーは今一信用できない。
そう思って確認して本当に良かった。
もし気づかずに安心してる所をガブリと行かれたら、酷い事になる所だ。
「おお、さすがはドラゴン。このカッパーのアクアガードを貫くなんて、見事です。どうやらこれは改良の余地があるみたいですねぇ」
カッパーが再びフェンリルの口に手をやり「ニューアクアガード!」と叫んだ。
どうやら新しくかけなおした様だ。
「さ、もう安心です。遠慮なく指を突っ込んでみてください」
「突っ込む訳ねぇだろ」
さっきの今で、だれが信用するか。
「疑り深いですねぇ、フォカパッチョは。こう見えてカッパーは同じ過ちを繰り返さないタイプなんで安心してください。」
果てしなく胡散臭い。
が、もう一度骨を持って来て確認した所、今度は本当に大丈夫だった。
ああそういや……精霊は嘘をつかないんだっったな。
え?
最初の安心から骨バリバリの流れは?
あれは誤算だっただけだから、嘘には入らない。
嘘をつくのと、誤認や勘違いで誤った情報を口にするのは別物だからな。
嘘をつくってのは、あくまでも本人が相手を騙す意図でする発言だけである。
まあなんにせよ。
この屋敷から魔物の鋭い牙と言う脅威が消えたのは喜ばしい。
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