第70話 フィーリング
宴会終了後に、俺は屋敷へと戻る。
ドラゴンの確認は早急ではないと判断したためだ。
因みに、行き来は馬車など使わず徒歩である。
馬車があるのになぜ使わないのか?
答えは簡単。
デイリークエストの消化の為だ。
塵も積もればなんとやらだからな。
地道にこなしていかんと。
「ふむ……」
屋敷に戻って、カッパーの住処である中庭の池でドラゴンを確認する。
「これってドラゴンなのか?鳥っぽいけど?」
カッパーが抱く、ドラゴンを見て抱いた感想である。
そのドラゴンは全身白い毛に覆われており、その見た目はまるで鳥の雛の様に見えた。
俺の中のドラゴンは、爬虫類っぽい奴だからな……
「白竜ですな。この種は、ドラゴンにしては見た目が可愛らしいですが間違いなくドラゴンですぞ」
タニヤンがそう俺に説明してくれる。
どうやら見た目は可愛くても、れっきとしたドラゴンの様だ。
――ドラゴン。
それは精霊と魔物との中間に位置する特殊な存在だそうだ。
基本的には大きくなると凶暴性が増すそうだが、知能が高く恩讐を理解して義理は貫くらしいので、きっちりと育ててやれば害はないないとの事。
だからこそ、カッパー以外の大精霊達も卵の事に気づきつつも特に何も言ってこなかったのだ。
「ぷぎゃぷぎゃ」
「歯……するど……」
ドラゴンが鳴くと、その口に並ぶギザギザの鋭い歯が見えた。
噛まれたら絶対やばそうな歯列である。
「あら、可愛いわねー。この子、お肉食べるかしら?」
見た目の愛らしさに、エクスが声を上げる。
まあ見た目はともかく、彼は心は乙女なので可愛らしい白いひよこ姿に最速で絆された様である。
「むしろ肉しかかたん状態ですよ」
「そうなの。じゃあこれ」
エクスが、腰に括りつけていた葉っぱの包みから肉を取り出す。
宴会で出されたチューペット肉——骨付き――の残りだ。
恐らく夜食にでもするつもりで貰って来たのだろう。
「はい、どうぞ」
「ぷぎゃぷぎゃ!」
エクスが顔の前に肉を差し出すと、ドラゴンが凄い勢いで咀嚼してそれを食らう。
それも骨ごとばりばりと。
「噛まれたら指ぐらい簡単に食いちぎられそうだな……」
子供のころは大人しいと聞いたが、食事風景を見る限りそうは全く見えないから困る。
「大丈夫ですよ。手足がちょん切れたくらいならちゃんと私が回復してあげますから」
そうカッパーが笑顔で言ってくる。
カッパーは特大精霊になった事で、より強力な回復魔法を扱える様になっていた。
まだ見せて貰っていないが、どうやら手足がちょん切れても回復できるぐらい強力な様だ。
頼もしい事である。
が――
「手足とかちょん切られるとか真っ平ごめんなんだが?」
怪我しないに越したことはない。
「ここ最近自分のランクアップもしてませんし、ほんとフォカパッチョは根性がありませんねぇ」
「領主にそんなものはいらん」
根性なしという点を否定するつもりはない。
が、領主に高い身体能力が必要ないのもまた真である。
よって俺には、自分ランクアップさせない免罪符があるという訳だ。
「頼もしい護衛もいるしな」
「うふふ、頼りにして下さいね。男爵様」
「マスターは私が守る!」
優秀な護衛騎士までいる今、猶更である。
「そうですか。領主の席にふんぞり返るのはあまり感心しませんけど、まあそれはこの際置いておきましょう。それより、この子に名前を付けてあげてください」
「ぷぎゃ」
カッパーが両手でドラゴンを掴み、俺の方に突き出してきた。
「俺が名前を?」
「そうですよ。この屋敷の地下で見つけた卵ですから、飼い主はフォカッパッチョじゃないですか」
勝手に羽化させといて、生まれたら飼い主はお前だとか、こいつ本当にいい性格してやがる。
まあクエストもあるし。
カッパーにドラゴン育成を一任するのも正気の沙汰じゃないからな。
俺が飼い主として、適切に育てんと不味いって点では、コイツにそれを主張されるよりはましか。
「やれやれ……名前ねぇ……」
見た目は白くてふわふわしている。
まあファンタジー世界で、白くてふもふと言えばあれか。
異世界物の定番——
「そうだな。こいつの名はフェンリルしよう」
――そう、フェンリルである。
え?
フェンリルは狼?
細かい事は気にすんな。
名前なんてこりだしたらきりがない。
だからこういうのはフィーリングでいいんだよ。
フィーリングで。
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