第69話 自由
「汝、タゴルをスパム男爵家騎士に任命する」
今日はポッポゥ達三人の任命式だ。
先延ばしになったのは、村を上げて祝いたいという村人達の意を汲んだためである。
収穫祭後は、直ぐに種まきの為の準備が始まる。
更にそこに精霊草の収穫まで重なったので――ポッポゥの影響でかなり早まった――遅くなってしまった訳である。
因みに場所は例の風呂と併設されている、村人達の憩いの場となっている休憩所だ。
場所的にはあれな気もするが、屋敷でやると村人達が収まらないからな。
まあスパム男爵家は古い形式にとらわわれない、自由な家門でいくのでまあいいだろうの精神である。
「この剣を男爵様に捧げる事を誓います」
今日の為に用意しておいた騎士用の礼服姿のタゴルが、俺の前で膝まづいて剣――というか鉈のナタン――を掲げる。
俺はその襟元に家紋の入ったバッジを付けた。
騎士は使える貴族の家紋入りの品物を身に着けるのが通例だ。
どういった物かは決まっていないが、だいたい揃いの剣や盾、鎧だったりする。
それ以外だと小物系だな。
で、うちはバッジ。
剣はタゴルがナタンを使っているし、ポッポゥも炎の剣を使っている。
鎧盾もポッポゥは自前の物があり、それ以外の二人はそもそも盾を装備しない。
なので必然的に、小物系になった訳である。
「めでたい!」
「やったねお兄ちゃん!」
「おめでとうタゴル!」
「お前は村の誇りだ!」
村人達が祝いの言葉で囃し立てる。
タゴルは気恥ずかしそうだ。
他の貴族家で行われる任命式でこんな真似をすれば、家門を侮辱したと、下手したら投獄されてしまいかねない所である。
だがうちでは問題ない。
名誉だとか格式だとかには、微塵も興味ないからな。
俺は。
その後、ポッポゥとエクスの任命式も終え、場は宴会場へと変わる。
「ほほほほほ、それでその時——」
エクスが楽しそうに村人達と談笑していた。
内容は男連中には冒険者時代の武勇伝を。
そして女性相手には、化粧の話だったりだ。
溶け込むのが異常に早いな……
こういう僻地の村だと、閉鎖的なイメージがある。
実際、カンカンが来たときは、アリン以外は皆積極的に関わろうとはしなかったし、警戒していたのが容易に見て取れた。
だがエクスに対してはほとんどそういった感じが見受けられない。
騎士と言うのもあるし、冒険者としてコミュ能力が高いのもあるだろうけど……
エクスぐらい突き抜けた珍獣だと、きっと一周回って逆に警戒が解けてしまうのだろう。
「ははは……」
いっぽう、もう一人の新参者であるカンカンは乾いた愛想笑いをしていた。
タゴルに睨まれて。
アリンに声をかけようとして、シスコンに邪魔された構図である。
はたして彼にタゴルの
因みに今日の宴会にもチューペット達が振舞われているが、もう落ち込んだりはしていない様だった。
その事から、精神的に一回り大きくなったのが見受けられる。
カンカンが成長するのはいい事だ。
オルブス商会には結構な支援を受けてるからな。
そんな相手に息子をゴミのまま送り返す羽目になったら死ぬほど気まずいので。
「何にやにやしてるんですか?」
「うわっ!?」
周囲を見渡していると、急に目の前にカッパーの首が現れる。
文字通り、首だけが。
「急に大声出して、頭のネジでも外れましたかフォカパッチョ」
「いやいやいや、なんちゅう姿で現れるんだよ。生首状態で急に目の前に現れられたら誰でもびっくりするわ」
「これは飛ばした私の分け身なので、容量的に体は作れませんでした」
容量足りないなら小型の姿とかにしろよ。
生首は不気味過ぎるだろうが。
現にカッパーに気づいた村人達が滅茶苦茶ざわついているぞ。
まあこいつには言っても無駄だろうが。
「で、池でちゃぷちゃぷを堪能していたお前がなんで首なんて寄越したんだ」
「あ、それがですね。生まれたんです」
「生まれた?何が?」
「ドラゴンです」
……ん?
今ドラゴンつったか?
「ドラゴンって……え?あのドラゴン?」
ドラゴンと言うのは、最上級の魔物だ。
1000年前の神の戦い以降、姿を見せていない事から全滅したと言われているが……
「そうですよ。前に池を作ったときに、底の方で化石かしてた卵を見つけて……それを私の精霊パワーで頑張って孵化させたんです。で、可愛いからフォカパッチョに教えてあげようと思って」
「いやいやいや、急に生まれたとか言われても困るわ。てか……そもそも卵を見つけたなんて話自体聞いてない訳だが?」
「ええ。話してませんから」
いやしろよ。
このくそ河童。
しかも最強クラスの魔物を勝手に孵化させんな。
お前はこの領地を亡ぼす気か?
「申し訳ありません。マイロードに許可を貰ってやっている物とばかり……」
ジャガリックが顔を手で押さえて謝って来る。
どうやら卵の存在には彼も気づいていたようだ。
「ふぉっふぉっふぉ。カッパーは相変わらず自由じゃのう」
「それが私の売りですから」
誰も幸せにならないであろう売りを、カッパーが誇る。
だがまあ、ジャガリック達の反応を見る限り、それほど危険はないのだろう。
最強の魔物といえど、生まれたばかりならそれほど力もないだろうし。
その時、クエストが増えたことを感じる。
【ドラゴンを育てきれ!】
『伝説のドラゴンが、水の大精霊の力によって再誕しました。敵か味方か未知数ですが、成体まで育て上げましょう』
敵か味方かもわからないのに、伝説級の魔物を育てろとかなんちゅうクエストだ。
普通なら即処分すべきなんだろうが……
成功報酬・1,000万ポイント。
失敗時・ドラゴンの強力な呪いを受けます。
ほぼ強制だった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます