第68話 俺が守る!
「ふっ!はっ!」
護衛の仕事を終え、村に戻った俺はナタンを握り一心に振るっていた。
日課の訓練だ。
「ふっ!はっ!」
最近、ポッポゥに続き新しい人間が増えた。
エクス・カリバルと言う一風変わった男だ。
正直、全く似合わないどころか、不自然極まりないレベルの女装ではあるが、まあそこは問題ない。
人の生き方などそれぞれだからな。
むしろああいうタイプなら、妹に粉をかけてくる心配がないのでカンカンなんかより余程好感を持てるという物である。
問題はその強さだ。
今の俺は女であるポッポゥにも遠く及ばない。
そしてエクスは、そんなポッポゥよりも強かった――あくまでも剣を使った戦いに限ってだが。
村では一番だったが、これまで自分が強いと思った事などはなかった。
それでも男爵に強化して貰ってスキルを手に入れ、バラックボアとの戦いの経験を経てナタンという相棒まで得た。
だから今の俺はそこそこやるんじゃないかと、己惚れていた感は否めない。
そんな俺に現実を突きつけたのが、ポッポゥとエクスだ。
別に最強を目指してる訳でもないし、上には上がいるなんて事は分かっていた。
だがこうも力の差を見せつけられると、やはり落ち込む。
同じ職務だから余計に。
「ふっ!はっ!」
負けたくない。
そんな思いが自然と浮き上がって来て、そのせいか訓練にも自然と熱が入る。
それに――
「はぁ……ひぃ……」
フラフラになりながらも、一心不乱に槍を振るうカンカンへとちらりと視線を向ける。
奴とはここ最近、一緒に訓練を行っていた。
最初は何かの冗談の様な動きしかできなかったカンカンだったが、僅かな期間で随分と様になってきている。
「ふっ!はっ!」
「はぁ……ひぃ……」
恐るべき事だが、カンカンは妹に惚れていた。
当然だが、甘やかされまくって育ったこんな奴に妹をくれてやるつもりはない。
以前の貧しい状態なら話は違っただろうが……
今は男爵のお陰でこの村は立て直されつつある。
なんだかんだ言って、あいつは他の貴族と違って俺達の事を考えててくれてるからな。
そして生活面の心配がない以上、たとえ奴の実家が金持ちであろうと、カンカンに妹を託すという選択肢はない。
だからハッキリ言ってやったのだ。
アリンの旦那には、少なくとも俺より強い奴でなければ駄目だ。
もし妹が欲しいのなら俺に勝って見せろと。
そんな俺に、カンカンはハッキリと宣言したのだ。
わかりました。
俺、貴方より強くなって見せます。
と。
「ふっ!はっ!」
「はぁ……ひぃ……」
どうせ口だけ。
だから直ぐに諦めると思っていたのだが、カンカンは歯を食いしばって必死に訓練を続けていた。
しぶとい奴である。
「ふっ!はっ!」
「はぁ……ひぃ……」
正直、ただしぶといだけなら特に気にする必要はなかったい。
問題はこいつに才能がある点だ。
ナタンが言うには、俺以上だそうである。
最初そう聞かされた時は、何かの冗談かと思ったものだが……
カンカンの成長ぶりを見ていると、あながち嘘ではない事が分かる。
このまま行けば、本当に俺より強くなる日がやってくるかもしれない。
そしてアリンをこいつが……
そんな事は断じて許さん!
許さんぞ!
カンカンの邪悪な野望は俺が砕く!
そのために俺は強くなって妹を守る!!
『タゴル。力み過ぎでフォームが崩れているぞ。集中しろ』
「悪い」
ナタンに注意され、軽く首を振って散漫になった意識を立て直す。
いかんいかん。
集中しないとな。
強くなるためにも。
アリン、兄ちゃん頑張るからな。
だから応援しててくれ。
俺は妹を守るため、強くなるために訓練に打ち込むのだった。
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