第67話 ランクアップじゃなくても

「君には当家の騎士になって貰いたい。エクス・カリバル」


「私が……騎士に?」


俺の言葉に、エクスが驚いた様に目を見開く。

治安維持の募集に来たら、騎士になって欲しいと言われればまあ驚くか。


「ああ。君の能力を鑑みるに、一兵士として働いて貰うのはもったいないと思ってね」


「本気でしょうか?自分でいうのもあれですけど……私はその……こんななりな訳ですし」


まあ他なら絶対アウトだろう。

貴族はメンツを重視する傾向が強いので、珍獣っぽい見た目の騎士を雇う事はまずないはず。


だが俺は元王族とは言え、今は所詮辺境の木っ端男爵に過ぎない。

他の貴族との交流も全くないので、ちょっとぐらい面白おかしい騎士が混ざってても全く問題ないのだ。


「些細な事だ。気にするまでもない」


なので、エクスの疑問に俺は笑顔でそう答えた。


「だ、だ……」


エクスの顔が歪み、その目の量端から涙が噴き出す。

まるで漫画の様に。


いやいやいや、どういう原理だよ。


そう突っ込まずにはいられない。

ここが異世界である事を考慮しても、ありえない現象だ。


「男爵様ああああああああぁぁぁぁぁ!!!」


エクスが急に飛び掛かって来る。

瞬間、その迫力に、某死にゲーで血まみれの蛮族の王が飛び掛かって来るシーンが脳裏を過った。


――つまり死の予感だ。


「そこまで!」


「落ち着いてください」


「そこまでじゃ」


が、その動きは俺の目の前でピタリと止まる。


エクスの首元には炎の剣が突きつけられ。

その手は見えないもので拘束されているかの様に万歳状態。

更にその足は、手の形をした岩に掴まれていた。


どうやらジャガリック、タニヤン、ポッポゥが止めてくれた様だ。


「あああああぁぁぁぁ!ごめんなさい!!あ、あたしったら、つい嬉しくって……」


エクスは感動のあまり抱きつこうとした様だが、A+のパワーの奴に抱き疲れたら下手すりゃ大怪我だ。

マジで勘弁して欲しい。


あと、本気で怖かった。

異世界来て初レベルの恐怖である。


「如何いたしましょう?」


ジャガリックが聞いてくる。

今のエクスの行動は、貴族である俺を暗殺しようとしていたともとれる行動だ。

なので、彼は最悪俺に処刑されても文句が言えない。


「殺気や悪意はなかったのなら……今回に限っては許そう」


この事で脅して相手をいい様に利用する事も出るが、まあ止めておく。

悪意を持たれたら意味がないし。


それに……自分も同じ様な事をやった事があるしな。


「承知しました。マイロードの寛大な処置に感謝するのだな。だが……次に同じことをすれば……」


「ごめんなさい!ごめんなさい!」


解放されたエクスがその場で土下座してペコペコ謝る。


「そう謝らなくていい。それで、騎士の件だが――」


「お受けします!」


彼はガバッと勢いよく顔を上げ、俺の言葉に食い気味に答えた。

その顔は涙で化粧がドロドロになっておりホラーさながらだったが、俺は思わず顔を顰めそうになるのをぐっと堪える。


まあ流石にな……


「スパム男爵の寛大さ!そして……こんな私でも受け入れてくれたその包容力!」


エススが立ち上がり、胸元に手をやるタイプの敬礼をする。


「このエクス・カリバル!貴方様に忠誠を誓います!!」


その時、クエストが反応する。

確認してみると――


【使徒を増やせ!】と、【使徒との信頼を築け!】が達成されていた。

当然対象はエクス・カリバルだ。


ランクアップさせなくてもいいのか……


ちょっと釈然としない物はあるが、まあ大量にポイント貰えたし良しとしよう。

謎ではあるが、こういうのは細かく考えてもしょうがないしな。


「エクス・カリバル。働きに期待しているぞ」


「お任せください!」


とりあえず、大量ポイントと忠実な騎士ゲットだ。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る