第66話 掘り出し物

「一人凄いのが混じってたな」


面接終了後、俺はジャガリックに声をかけた。


「ええ。相当な使い手です」


今日の面接に来た中に、とんでもない奴がいた。


名はエクス・カリバル。

筋力A+に敏捷性と体力がB。

更に魔力と知力もCランクと、俺の知る限り断トツのステータスをしている人物だ。


しかもスキル持ちと来てる。


「どう考えても、辺境で衛兵とかする様な能力じゃないよなぁ」


その経歴は黄金級パーティーに所属していた、元Aランクの冒険者だ。


冒険者ギルドに登録されているパーティーは、実力と信頼度から5段階に分類されていた。

青銅級が一番下で黒鋼、白銀、黄金の順に上がって行き、白金級がトップとなる。


黄金級は上から二番目ではあるが、国内には数パーティーしか存在しておらず。

そこに所属するAランク冒険者なら、貴族から騎士として仕えないかとラブコールが飛んできてもおかしくない程だ。

実際、どこかの伯爵家が黄金級パーティーを丸ごと騎士として抱えたって話もあるしな。


つまり、エクス・カリバルは超が付くほど優秀という訳である。


年齢が43と少々高めではある事を考慮しても、本来ならそんな強者がこんな募集にやって来る事はまずない。


「人格面に問題はかんじんし、身元もしっかりしておる。まさにお得な掘り出し物といった所じゃな。ふぉっふぉっふぉ」


精霊から見て、エクスは人格面に問題がない様だ。

だが本当に全くないのかと言うと、俺個人的にはうーんって感じである。


問題はその趣味……と言うか個性だ。


エクスは金髪でサラサラのロングヘアーで、鮮やかなばっちリメイクに煌びやかなドレスを着た――


いかつい顔のおっさんだった。


いわゆる汚い系のおかまだ。

体格も、ごついタゴルを軽々と抱え上げられそうなマッチョと来ている。


なのでそのビジュアルは強烈の一言。


因みに、彼も元々は普通の男として生きてきたそうだ。

ただ40歳の時にある事がきっかけで真実の自分に気づき、それ以来女として生きているそうな。


所属していた黄金級パーティーからは『悪い。パーティーの雰囲気にそぐわないか出て行ってくれないか』とメンバーから懇願されエクスは泣く泣く抜けている。


そしてソロ冒険者として各地を転々としたのち――おかまなので貴族から声がかかる事もなかった――死の森の魔物を狩ろうとこの町に来たところ、募集に気づいて応募してきたという訳である。


本人曰く。

『そろそろ落ち着こうかなと思って』

だそうだ。


「うん、まあそうだな……」


糞でかい、しかもいかついおかまの兵士……


採用は正直迷う。

偏見全開で言わせて貰うならば、子供がエクスを見たら絶対泣く。

どう考えても、治安部隊向きのビジュアルではないのだ。


とは言え、逃すのはもったいないんだよなぁ。

なにせステータスバカ高いし。


その強さは、荒くれ者の冒険者を抑え込むにはもってこいだ。

もと高ランク冒険者って肩書も、その辺りで生きて来るはずである。


しかしビジュアルが……

これがポリコレマンなら、細かい事は気にせず迷わず即採用なんだろうが……


「私は反対です」


雇うべきかどうか、少し葛藤しているとポッポゥが声を上げた。

どうやら彼女も、あの個性の人間を警邏させたりするのは問題があると判断したようだ。


ま、普通はそうだよな……


「あれほどの人物に一般兵をやらせるなど、まさに宝の持ち腐れ。彼にはスパム男爵領で騎士になって貰うべきかと」


あ、うん。

見た目じゃなくて、能力的にもったいないから反対って事ね。


「確かに名案ですね」


ポッポゥの案に、ジャガリックも乗り気だ。

まあ確かに、あの見た目で門を守らせたり街中を巡回させるのは問題だが、騎士として屋敷に滞在する分には問題ない。

そういう意味で、騎士として雇うのはナイスアイデアと言えるだろう。


この前ペカリーヌ王女とかが来たけど、うちの屋敷に他の貴族が来ることって希だしな。


「騎士は悪くないな」


少し前までなら、こっぱ男爵家に貴族はいらないと考えていただろう。

だが、今は優秀な騎士は大歓迎である。

何故なら、これからは定期的に魔物を狩ろうと考えているからだ。


ポイントを稼ぐために。


何かあったときのため様に、ポイントは多ければ多いほどいい。

だがデイリーとかだけだと、収支的にきついのだ。

このままだと増やすどころか、減って行くばかり。


だから魔物を狩ってポイントを稼ぐ!


あ、もちろん狩るのは俺じゃないぞ。

俺の使徒たるタゴル君のお仕事だ。

使徒が倒した場合も、魔物のポイントは入って来るからな。


そう、彼にはポイントゲッターを務めて貰う!

がんばれタゴル!


と言うのはもうほぼ確定路線なのだが、タゴルだけで狩りに行かせるのは危険度が高い。

結構強いとはいえ、流石に単独という訳にはいかないしな。


なので、サポート出来るメンツが何人か必要なのだが――


アリンは絶対タゴルが嫌がる――と言うかブチギレそう。

ジャガリックとタニヤンは色々とやって貰っていて忙しく、魔物狩りをする余裕はない。

カッパーは面倒くさいから絶対嫌だとほざく。

ポッポゥは護衛騎士なので俺の傍を離れようとしないし。

他の村人を何人かつけただけじゃ不安。


という理由により、送りだしたいけどリスク的に現状では難しいという状況だった。


が、ここで元Aランク冒険者が加わってくれるのならその計画は一気に前進すると言えるだろう。


「その線で再度面談してみるか」


いい返事が貰えるかどうかは、正直微妙だ。

なにせ、エクスは腰を落ち着ける為に警備隊の募集の面談にやってきたのだ。

死の森に放り込まれて、魔物と闘う前線のお仕事に首を縦に振るかと言われると……って所である。


因みに、死の森へはゲートを使って出入りさせる予定だ。

常時展開は難しいので送ったら閉じ、ナタンからの合図で座標を割り出して回収用のゲートを出す感じ。

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