第65話 視察
「ようこそおいでくださいました、スパム男爵様」
新しい町にできた領主館。
そこで俺を出迎えたのはブンブンだ――今日視察に来る事を伝えてあったので、彼もそれに合わせて用意していた。
「町は順調みたいだな」
領主館から見える町並みは、かなり完成度が高かった。
この周囲一帯を優先して整備しているだけで、全体として見た場合まだまだな可能性もあるが……
まあまだひと月ちょっとだしな。
そっちの方が可能性は高いか。
完成には3か月程と聞いているし、半分以下の期間でほぼ完成してると考える方が無理があるという物。
「ええ。想定を超えて、遥かに順調に進んでおります。それもこれも全てジャガリック様達のお陰とも言えましょう」
町を作るに当たって、大精霊達には八面六臂の働きをして貰っていた。
まずは道の整備。
大量の物資を郵送するには、しっかりとした大きな道が必要不可欠だ。
本来ならそこを整備するだけでも数か月かかる所を、彼らはほんの数日でそれを終わらせている。
まあもちろん、日本の様なアスファルトの綺麗に舗装された道とはいかないが。
それでも、しっかりとした固く平らな道になっているのだから、道としては十分機能していると言えるレベルだ。
それに加えて外壁と外堀の制作。
死の森の近くである以上、しっかりとした外壁や外堀は必要不可欠だ。
それを三人は半日ほどで完成させてしまっている。
更には、町の建築物の基礎の構築など。
基礎工事部分や、必要なら支柱や大まかな外壁なんかもジャガリック達が手掛けていた。
これにより建築において多くの行程をすっ飛ばす事が出来、馬鹿みたいな急ピッチで町は完成に近づいているという訳である。
因みに、基本ポッポゥはノータッチだ。
そもそも結構最近来たってのもあるし、彼女は護衛騎士としての仕事に集中すると公言しているので。
「あと二週間ほどで、初期に想定していた建築物はほぼ完成する見通しになっております」
あと二週間と言うのなら、領主館周りだけがという訳ではなさそうだ。
「住民の方はどうだ?」
ガワがあっても、中で暮らす住人がいなければ話にならない。
人あっての町である。
「そちらの方も順調で御座います。ギルドも相当乗り気な様で、各地で大きく宣伝してくれていますので」
「そうか」
死の森は魔物の住処だ。
それは魔物を狩って生計を立てる冒険者達にとって、まさに宝の宝庫と言えるだろう。
――だがこれまでは、冒険者などの一般人には一切門戸が開かれていなかった。
まあいわくつきの森だし。
魔物が森から出てこないため、外部に流れて被害を及ぼす心配がないという事で、王家はここをノータッチで放置するというのが指針だった。
だが俺が領主に変わった事で、その門戸が開かれたのだ。
冒険者ギルドからすれば、垂涎の事業拡大チャンス。
積極的に協力してくれるのも頷けるという物である。
「2年もあれば、この町の全てが埋まると私の方では試算しております」
この町の収容人数は、最大で3万人ほどを想定している。
町としては小規模ではあるが、2年で埋まってくれるのなら上々と言えるだろう。
もちろん、ブンブンの試算通りにいくならという大前提ではあるが。
「順調そうで何よりだ」
因みに、初期の時点での収容人数は1万人分ほどしかない。
流石に大精霊達の力を活用しても、三か月で10万人分の家屋を用意するのは無理だからな。
随時、増築していく予定である。
「では不詳、このブンブンめが男爵様をご案内させていただきます」
「ああ、頼む」
俺はブンブンに案内され、町の様子を視察してまわる。
出来たばかりの町並みは綺麗な物で、中には既に住人が居住している建物なんかもちらほら見受けられた。
話を聞くと、既にこの町には1,000近い人間が住んでいるそうだ。
まあその大半は建築関係の人間——その家族くも含めて――な訳だが、そういった人達を相手にする飲食店や酒場なんかも既に開いているらしい。
仕事が早いな……
この仕事の速さから、商会主としての彼の仕事の手腕が窺えるという物である
ま、子育ての能力は絶望的に終わってるが。
人間得意不得意がある物だから、そこはしょうがないって事にしておこう。
「じゃあ次は面接だな」
――視察を終えた俺は次の仕事へと移る。
町の運営には、必要不可欠な物があった。
それは町の治安を維持する、男爵家所属となる治安維持隊だ。
まあ警察の様なものだと思って貰えばいいだろう。
冒険者はどちらかと言うと、荒くれ者に分類されるからな。
そんな人間を中心に据えた町は、きちんと管理しなければ治安が滅茶苦茶になるのは目に見えている。
だから、しっかりとした治安維持隊を用意しなければならないのだ。
で、その選考は俺がする。
この部分は、流石にオルブス商会に丸投げする訳にもいかないからな。
なにせ男爵家所属な訳だし。
だから商会には、募集だけ出して貰ってって感じである。
まあけど正確に言うなら、選考するのは俺ではなくてジャガリックやタニヤンな訳だが……
俺に人を見る目なんてないからな。
ペカリーヌ王女の演技にも全く気付けなかったし。
その点、ジャガリック達なら相手の嘘や本質を簡単に見抜けるからな。
なので出来る事と言えば、鑑定で能力を見る事ぐらいである。
え?
能力が分かるのは重要?
まあそれもそうなんだが、別に鑑定を使わなくても、おおよその相手の力量は大精霊達には分かるっぽい。
なので、本格的に俺のやる事はほぼ無いに等しかったりする。
とりあえずトップとして顔を出すだけ。
それが俺のポジだ。
少なくとも、この面接に関しては。
ま、楽だからいいっちゃいいんだけど。
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